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第228話
出血しているのはそこだけではなく、鼻からは尋常じゃないほどボタボタと血が溢れ出ていて、明らかに変な方向へ折れ曲がっていた。
なのに亜也斗は蹴るのをやめない。
周りの人たちも彼を恐れて何も言わないし、庇おうともしない。どうして―――…!?
ボクはもう見ていられなかった。
「もぉ……止めたげ…て? ボクの手足…ちょん切ってもい…からっ……この人のこと許してあげ…て?」
背中やお腹などを蹴られて小さく蹲る近藤さんの前に、気がつけば手を広げて立っていた。
変わらず身体はガクガクと震え続けてはいたけど、人が痛めつけられているのはこれ以上見たくない。
すると亜也斗は最初ポカンとボクを見下ろし、次いで我に返ったのか大声で笑い出した。
怒りなど忘れたかのように豪快に……。
「あははははっ、おチビちゃん自分の置かれてる立場わかって言ってるの!? そいつ庇ったって庇い返してはくれないよ? こいつらみんな自分が可愛いんだからさっ」
「うん、知ってる……よ? でも……ボク、痛い痛いの……知ってる……からっ」
必死に言い募った。ボクは頭が悪いから、言いたい事の半分も伝わっていないと思うけど、少しでも思ってる事を言葉にする。
そうしたら亜也斗は急に押し黙ったかと思うと、その顔から一瞬で表情が消えた。
「ふーん、おチビちゃんは死ぬほどバカなんだね。……近藤、こいつのお陰で命拾いしたな。さっさと吉良を呼んでこい!」
「はいっ、ありがとうございます!!」
近藤さんは助かったと安堵の息を吐きながらも、亜也斗に勢い良く頭を下げて恩情を掛けて貰った礼を述べる。
そして痛む身体を引き摺って立ち上がると、ボクには見向きもしないで外へ出ていった。
「おチビちゃんもホンット馬鹿だよねぇ、こんな奴らを庇ったって何の得にもならないのに……」
「…………う?」
「ここにいる連中はね、人間のクズばっかだよ。守る価値もない。強い者には媚びを売るけど弱者にはハイエナのように群がり、骨の髄までしゃぶり尽くす。それに仲間もあっさり見捨てるし、どうせいざとなったら直ぐに俺も裏切るんだこいつらは……」
そう独り言のように呟く亜也斗の顔は、侮蔑の情に満ち歪められていた。
もしかしたら過去に何か、彼にここまで言わしめる出来事があったのかもしれない。
でもだからといってあそこまで人に暴力を振るうのは、やっぱり異常だとボクは思った。
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