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第235話

気持ちは分からないでもないが、今回だけは聴き逃して欲しくはなかったとつい俺は苦虫を噛み潰したような顔になる。 しかしその時の状況や前後の会話などで朔夜とは古い付き合いの和之ならば、ある程度の推察はできるかもしれないと思い直す。そうなるとあいつの早い帰還が望まれた。 「―――あっ、不破さんが戻って来られましたッ!」 倉庫の入口に注意を払っていた雪が声を上げる。それに反応してそちらに顔を向ければ、そこには何故か小さな女の子を腕に抱いた和之の姿があった。 ヤツの腕の中にいる子供は見たところ4~5才くらいの年齢で、皮肉なことに面影がどこぞの誰かと酷似している。 その幼女を抱くその男が先ほどまで滞在していた場所を思えば、今回のことの成り行きを容易に想像できてしまった。 怯えるその子を比較的温和で優しい雪に手渡しながら、和之はニヤリと口角を上げてこちらを見る。 「もう大体のことは察してるだろうけど……あの屋敷で思わぬ収穫があったよ♪」 「フッ、()()でヤツを寝返らせる気か?」 「そうしたいけど……まぁ無理だろうな。忠誠心の強い男だ、この子が俺たちの手元にあると分かればヤツは安心して寝返るフリをするだろう。本来の主のために……」 「先ずは奴らの居場所を特定し、その周辺をこちらで固めてからでないと、か……」 肩を竦めて言う和之に俺も苦笑を洩らす。 それがいま1番苦戦を強いられているところだからだ。狡猾な奴らは逃げ足も早ければ隠れるのも上手い。 潜伏先を絞り込むのに必要な頭脳明瞭の朔夜もいない今、何もできず手を拱いている状態だった。――と、不意に俺の懐にあったスマホが着信を知らせる。 誰かと確認の為に液晶画面を覗けば、そこには病院に向かったハズの健吾の名が表示されていた。 もしやその朔夜の身に何かあったのかと危惧した俺は、慌てて画面をタップしそれを通話状態にする。 『―――もしもしっ、和之かッ!?』 「…………ちょっと待て、いま代わる」 相手のいきなりな言葉に一瞬目を見開き、そういえばこれは和之に借りたスマホだったと思い出す。苦笑いを浮かべたい所だがことは一刻を争うため、俺は無言のまま目の前にいる元の持ち主に()()を返した。 一連の流れを見て和之は小首を傾げたが、何も聞かず受け取り耳に当てる。 「えと、あの……?」 『―――てめぇっ、今まで何処で何してやがった!!』

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