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第237話
「―――ッ!? そう……でした、すみません。無駄な時間を使わせてしまいましたね、急ぎましょう」
既に次代を担う心積りができている優心は俺の言葉に頷き、まだ幾許か渋る雪を促して子供を他の者に任せ、俺たちに続いて2階へと上がった。
リビングへ入ると和之はいつものソファの真ん中に腰を下ろし、両側を俺と虎汰に座らせて優心と雪は向かいの席を勧める。
そしてローテーブルに朔夜の予備パソコンを置くと、奴は静かにそれを起動した。――が、画面上にパスワード入力の文字が表示されて暫し手が止まる。
「……まさか和之ッ、あいつのパスワード知らないとか言わないよな?」
心配げに覗き込む虎汰に和之は苦笑いして肩を竦めた。その顔は知らないのだろう。その場に気まずい空気が流れる。
だが考え込むように宙を彷徨っていた奴の目が部屋の隅にあるカレンダーに止まり、漸くその手が動き出す。アルファベットの羅列を打ち込んでEnterキーを押せば、それはトップ画面へと切り替わった。
「なんだ、やっぱ知ってたんじゃん」
「いや、知らなかったよ? もしかしたらと当てずっぽうで打ち込んでみたんだ」
「マジかよっ、でもそれで開くとかってお前らどんだけ仲がいいんだよっ」
ひとり感心しきりの虎汰を他所に、和之はキーボードを操作してとあるファイルへと辿り着く。迷わずそこをクリックすれば、何かのシステムデータが表示された。
「これは検索したい人物の名前や顔写真、身体的特徴なんかをどれかひとつでも入力すると、あとはWeb上にアップされたその人に関するあらゆるデータが自動で送られてくるアプリなんだ」
「へぇ…あのさ、それって一応聞くけど合法なの?」
「ん、それ聞く?」
「うえ~っ、やっぱ聞かな~い! つかそれが何なの、いまコレ必要?」
顔を思いきり顰めつつも率直に疑問をぶつける虎汰に、和之は適当な相槌を打ちながらも検索結果を開く。
どうやら先程の健吾との会話で、朔夜のメインPCに検索ヒットの知らせが届いたと報告を受けたらしい。
暫くするとパソコンにはおどろおどろしいトップ画面が表示された。それは会員制の有料サイトで加虐趣味の輩が集う、云わば互いの趣味 を“見せ合う”場なのだという。
その説明を受けて俺も虎汰も、そして向かいに座る2人の顔にも緊張の色を見せた。以前から常磐にはそういう趣味の噂が絶えなかったからだ。
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