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第243話

今頃はもう朔夜さんはチームの誰かに発見され、病院へ連れていって貰えただろうかと考えを巡らせた。 あれからどれほどの時間が経過したかは分からないが、彼処にいる温かい人たちならばきっと彼を助けてくれているに違いない。 根拠もなくそう思えて胸がほっこりした。 ボクには無縁なもの……。でも彼らにはそれが当たり前で、羨ましいとは思うが不思議と妬ましいとは思わなかった。 分相応……うん、ボクなんかが望んではいけないものだ。性欲処理の烙印を押されたペットは、一生かかっても手に入れられないのだから……。 素敵な夢を見たと思って外のことは忘れよう。 だけどどうしても辛くなった時などは、時々こっそりと彼らのことを思い出して糧にしようと思った。 最後の気がかりは煌騎のこと……。 彼はボクが勝手に倉庫を出ていったことを怒っているだろうか? それとも漸く邪魔な存在がいなくなって清々してる? どちらでもあって欲しくはないな。少しは寂しがってくれてたら、ボクはあの屋敷から抜け出して良かったと思えるのに……。 煌騎のことはたぶんもう忘れることはできない。どんなに努力したって忘れられるワケがなかった。 虎子ちゃんに教えて貰ってこれが恋なのだと知って、自覚するまでに少し時間がかかったけれど後悔はもちろんしていない。 だってペットの分際でも人を好きになることができたのだ。ほんの短い間だったけどボクには永遠と思えるほど、濃厚でとても幸せな日々を送れたと思う。 そんなことをつらつらと考えていると、瞼はしっかりと開いているのに段々と意識が遠退いていくのが分かる。 ―――これが“()()()”ということなのだろうか……。 ボクの中にある僅かな感情が少しずつ消えていく。まるで気泡がプチン、プチンとひとつひとつ音を立てて割れていくみたいに、弾けては跡形もなくなっていった。 あぁ、やっとボクにも待ち望んでいた()()が訪れたんだ。そう思ったら急に重い身体が楽になった。 最後にもう一度だけ煌騎の顔を思い浮かべる。 『ねぇ煌騎、ボクお外に出られてとても幸せだったよ? だから……ありがとう……それと、さよならも言わずにいなくなって……ごめんね……』 悲しくもないのに何故だか涙が溢れ、一雫だけこぼれ落ちて頬の上をツーッと伝った―――…。

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