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第245話
一心不乱にボクを殴っていた亜也斗もピタリと振り上げる腕を止め、顰めた表情のままだがゆっくりと扉のほうを振り返った。
止めに入った男の人たちもそれぞれが顔を見合わせ、こんな時間に音を消すのはあり得ないだとか、フロアにいた60人近くいた客はどうしたとか矢継ぎ早に口にする。
そして困惑しきりの男の人たちは判断を仰ぐように亜也斗を見た。けれど暫く考える素振りを見せた彼は、ふとボクの方を見てニタリと口角を上げる。
「ふーん、まだキミの使い道があったよ。良かったね、この場で処分されなくて……」
そう気味悪く笑うと亜也斗はボクの腕を掴みベッドから引き摺り下ろし、敷いていた所々血で汚れているシーツをそこから剥ぎ取った。
それを扉の前で呆然と立ち尽くす、ボクと背丈の似た男の人に有無を言わさず着ているものを脱がせ、頭から被らせる。脱がせた服はボクに着せ、長い髪は衣服から出さずにフードを被せた。
亜也斗はその姿を交互に見比べる。
「ま、遠目から見ればカモフラージュくらいにはなるでしょ。ほら、行くよ!」
その人を残る男の人たちで囲ませた上で、またボクの腕を掴み彼らを従えて部屋を出た。
そのまま何の迷いもなく此処へ来た時の道を戻っていき、さっきは人がたくさんいた大きなフロアの前まで来て一度足を止める。
そこでひと呼吸置くと亜也斗は徐ろにボクの方を向き、鋭く睨んで念を押すように言う。
「言っとくけど、俺の足だけは引っ張らないでよ。騒ぎに紛れて逃げようとしても、無駄だから……分かった?」
「……………」
「何があっても俺の傍から離れるなって言ってんの」
―――パシンッ!!
苛立ちも露わに亜也斗は腕を掴んでいない、空いている右の手の甲でボクの右頬を打った。
その衝撃で唇と口内の何処かが切れ、口端からは血がたらりと流れ落ちる。
けれど何の感情も湧かないボクは、とりあえず今は彼に逆らわず従っておこうとコクコク頷いて見せた。
「ホントつまんない顔……、でもそうしてられるのも今のうちだよおチビちゃん。皆の前でキミを犯したらあいつどんな顔するかなぁ、楽しみだね?」
亜也斗にそう言われ、感情は消えたハズなのにボクの眉がピクリと動く。それを見た彼は満足そうにくくっと笑うと後ろを振り返り、周りを囲う男の人たちに目で合図をした。
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