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第246話
重い観音開きの扉が二人の男の人の手によってゆっくりと開け放たれる。その瞬間、目に飛び込んできた光景にほんの僅かだけれど心にさざ波が拡がった。
所々にあった背の高いポールのテーブルやイスは倒れて隅へと追いやられ、床一面には折り重なるようにして倒れる人・人・人……。
でもそれよりもボクの目を釘付けにしたのは、此処にいた人たちとは異なる空気を放つ5人の男たちの姿だった。
襲い掛かってくる相手を回し蹴りで軽く薙ぎ倒しているのは、ポケットに両手を突っ込んだままの和之さん。
所狭しと身軽に動いて攻撃を躱しつつ、拳や蹴りで大勢の相手を次々にノしている虎汰……。
その奥の出口付近では和之さんの腹心、優心さんと朔夜さんの補佐役である雪さんがフロアに入ろうとする男たちをブロックし蹴散らしていた。
そしてボクに1番近い場所では銀色の髪を靡かせながら拳を握り締め、気絶した男の胸ぐらを掴んだままゆっくりと顔を上げ此方を見る男―――…。
ボクがどんなにか待ち侘びて、でも傍にいてはいけないと諦め手放した美しい人――煌騎がそこには立っていた。
あんなに大音量で流されていた音楽も今は止まり、代わりに彼らの発する喧騒と其処彼処で倒れる人の呻き声がフロア中を充満している。
「………煌……騎ぃ………?」
無意識のうちに脚がそちらへと出かけたけれど、亜也斗が無言で前に立ちそれを阻まれた。そうだ、ボクは彼の邪魔をしちゃいけないんだった。
そう思い直し、言われた通りその場に留まり彼の後ろへと隠れる。それを確認した亜也斗は前に一歩出て、静かに煌騎と対峙した。
すると対する彼も手にした男の胸ぐらを離し、緩慢な動作で此方に正面を向ける。
「くくっ、客人を出迎えもせず待たせてしまったようで悪かったねぇ。でも来てるなら連絡ぐらいしてくれれば良かったのにぃ~、つれないなぁ」
「フン、連絡は事前に入れてあるよ。店内に入れるよう手引きしてくれたのは吉良だからね」
後ろから和之さんが近づき、無言のままの煌騎の肩に手を乗せ含み笑いを浮かべながら言う。
それを聞いて驚いたのか、亜也斗は動揺したように足元をグラつかせた。
「はぁっ!? 吉良がッ!? そんなワケあるか! アイツは俺の忠実なッ―――…」
そこまで言い掛けて言葉に詰まる。
店内がこんな騒ぎになっているにも関わらず、誰ひとり亜也斗の元には連絡を寄越さなかったからだ。
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