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第247話
今も亜也斗の傍に吉良さんの姿はなく、和之さんの言葉に真実味を持たせている。なのに彼は頑なに首を横に振り続けた。
「―――嘘だっ、嘘だッ!! アイツが俺を裏切るハズがないっ、デタラメを言うな!!」
「吉良を随分と信頼してるようだが常磐、お前はアイツの何を知っている。奴の大事な妹が何者かの手によって攫われていたというのに気付いていたか?」
幼児が駄々を捏ねるように癇癪を起こす亜也斗に、煌騎は冷ややかな目線を向ける。その瞬間、彼は言葉を失い目を大きく見開いた。
「……遥ちゃんがっ、攫われた……だと!?」
まるで信じられないという顔をする……。
けれど思い当たる節があるのか、亜也斗はその言葉に強く否定できないでいる。
するとカウンターの奥からその渦中の吉良さんがのっそりと現れた。
その腕には4~5才くらいの小さな女の子を大事そうに抱えており、彼の首元に縋るようにして抱きついてフルフルと震えている。
その様子を見て亜也斗は無意識に詰めていた息を吐いた。
「なんだっ、遥ちゃんいるじゃん! 驚かすなよっ」
「違う亜也斗、遥は不破が連れ戻してきてくれた」
「―――はっ!? どういう……こと?」
訳が分からないと亜也斗が首を傾げれば、言葉を引き継ぐようにまた和之さんが此方に一歩近付いた。
「ちょっと諸用で鷲塚の家にお邪魔してたんだけどね、そこで軟禁されてる女の子を見つけたんで保護したんだ。名前を聞いたら吉良の妹だと言うから送り届けに来たというワケ」
「鷲塚…だと……!? あの女狐ッ……よくも俺を謀ったな!!」
漸く自分が謀られたのだと知った亜也斗は、苦虫を噛み潰したような顔になる。
しかし直ぐに怒りが鎮まったのか澄ました顔になり、今度はニッコリと笑って和之さんや煌騎の方に目を向けた。
「それはワザワザご親切にどうもありがとう。でも詰めが甘いね、そう思うだろ吉良? 遥ちゃんが帰ってきたのなら……もういいよな」
「…………あぁ、俺はお前の駒だ」
無表情で吉良さんはそう言う。
その顔はいまのボクみたいだ……。
そのことに気づかない亜也斗は尚も言葉を続けた。
「なら、さっさとコイツらを始末しろ! それから、おチビちゃんはいま邪魔だから先に海外へ飛んでて貰おうかな。おい、お前ら!」
そう言って亜也斗は振り向くと何故かボクの横を素通りし、その後ろにいるシーツに包まれた男の人の前へと立つ。
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