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第251話

派手な音を立ててポールテーブルやイスが散乱する中へと突っ込んだ彼は、屈辱感に顔を歪めながらのそりと立ち上がった。 その肩は既に息が上がって上下に揺れている。 けれども滾る闘争心は未だ衰えず、ギラギラとした眼差しで目の前にいる煌騎のことを睨み続けていた。 「これしきの攻撃で勝ったと思…うなっ……よっ……あれ―――…!?」 ゆっくりとした動作で近づいてきた亜也斗の脚が、不意にガクンと崩れて膝を折る。本人も自分の身に何が起こっているのか分からず狼狽を見せた。 そしてよくよく見れば先ほど煌騎が蹴って遠くへ飛ばしたハズの刃物が、亜也斗の脇腹に深々と刺さっていたのだ。 「なんだコレ……俺のナイフ? つか、なんでそれが俺の腹に刺さってんの? 邪魔なんだけどっ」 「―――ダメだ亜也斗ッ、抜くなッッ!!」 痛みを感じない彼は動揺のあまり、柄に手を掛けて吉良さんが止めるのも聞かずあっさりと抜いてしまった。 するとおびただしい量の血が噴き出し、床一面が真っ赤に染まって辺りに鉄臭い匂いが充満する。 「な……なぁ、あの量ってなんかマズくないか?」 「あぁ、つかあの人死んだら俺らどーなんの」 「此処いたらヤバくね? 警察捕まんのヤダしさっさとあの人捨てて逃げよーぜ!」 フロアに残っていた彼の仲間はざわざわと騒ぎ始め、次第に怖くなったのか自らの(トップ)を見捨てて我先にと逃げ出してしまう。 ボクを拘束していた男の人も、自分の意思では歩こうとしない足でまといを連れては行けないと判断したのか、腕を離して呆気なく行ってしまった。 そんな中、吉良さんだけは素早く亜也斗の元へ駆けつけると、必死で傷口に手を押し当てて止血しようとする。 「白銀頼むッ、もうやめてやってくれ! こいつどうしようもないバカだけど根はいい奴なんだッ!!」 縋る眼差しで傍らに立つ煌騎を見上げ、彼は何の迷いもなくその場で土下座した。突然のことに亜也斗本人も驚く。 「子供の頃に信頼してたボディーガードに誘拐されて、その時に母親も殺されたから人が信じられなくなっただけなんだ! だからっ……お願いだ白銀っ、見逃してやってくれッ!!」 尚も吉良さんは力いっぱいに頭を床に擦り付けた。その彼の瞳には薄らと涙が滲んでいる。 あれだけ彼も亜也斗には酷い仕打ちを受けていたのに、己のプライドを捨ててまで煌騎に縋る理由が分からなかった。

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