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第252話
すると兄の悲痛な叫び声に反応し、今までカウンター裏に隠れていた彼の妹が出てきて、その隣にそっと腰を下ろす。
そして純粋無垢な瞳で兄と亜也斗を見比べ、両方の頭を小さな掌で撫で撫でした。
「亜也斗お兄ちゃん怪我したの? 悠真お兄ちゃん泣かないで、遥がおまじないしてあげるから、ね?」
「――――ッ!?」
小さい女の子はそう言うと血で染まった兄の手の上に自分のそれを置き、震える声でちちんぷいぷいと唱え始める。
未だ怒気を含む煌騎や和之さんらが怖いのだろう。それでも彼女は懸命に横たわる亜也斗の腹部に呪文を唱えた。
「亜也斗お兄ちゃん痛くない痛くない。あのね、この呪文を唱えるとね、天国にいる遥のおばあちゃんと亜也斗お兄ちゃんのママが痛い痛いの持ってってくれるんだよ。もう痛いの…取れた?」
「………ふふふ……ふははははっ!……あ~ぁ、なんかぜ~んぶ馬鹿らしくなってきちゃったな。でも……ありがとね~遥ァ、ホンット……ありが…と……」
天使のように微笑む女の子にあれだけ刺々しかった亜也斗の顔が、瞬く間に穏やかな表情へと変わっていく。そして涙を滲ませた瞳で彼女の小さな頭を撫でた。
「…………和之、健吾に連絡してやれ」
「了解ッ! 虎汰はとりあえず優心たちを追ってくれっ、今ならまだ追いつくかもしれない!」
「あ~、ちょっと待って……その必要はないよ。……おチビちゃんはっ、ここにいる……」
ようやく我に返った煌騎はすぐさま振り返ると和之さんにそう指示し、その彼はスマホを片手に電話を掛けながら隣にいる虎汰に裏出口を指差した。
だが出血のわりに意識のしっかりした亜也斗はそれを見て虎汰を止め、こちらのほうに視線を向ける。それからおいでと手招きをし、ボクを傍らに呼んだ。
何も考えないで呼ばれるままそこへ行くと、被っていたフードを取られて顔を晒される。
「――――チィッ!?」
「なんだそこにいたのかチィッ、良かった!」
和之さんも虎汰もボクの顔を見た瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。だけど煌騎だけが何も言わず、ずっと訝しむ目でこちらを見つめている。
それに気づいた亜也斗が苦笑を浮かべ、でも少しも悪びれることなく真実を告げた。
「………悪いな、さっきこの子壊しちゃったんだ」
「―――なんっ……だって!?」
彼の言葉に1番驚いたのは吉良さんだった。
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