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第256話〜望まない結末〜(煌騎side)

「………なぁ、なんで目ぇ醒さないんだよぉ」 「仕方ねーだろ虎汰、それだけの事がこいつの身に起きちまったんだから……。俺たちは回復を信じていまは待ってやるしかないんだよ」 病院の一室でパイプ椅子に腰を下ろした虎汰の肩に手を置き、流星が自身も憤りを感じながらそう宥めている。 それを俺は窓際に立ち外をぼんやりと眺めつつ聞いていた。それから何気なく振り返り、部屋の中央に置かれたベッドの上で静かに眠るチィの寝顔を見遣る。 あの最悪な日からもう1ヶ月が経っていた……。 警察の突然の介入により強制的な幕引きとなった常磐との抗争は、大人たちの更なる介入により(おおやけ)にはならずに済んだ。恐らくは常磐側から何らかの圧力があったのだろう。 お陰でこちらは退学を免れたが、あれからチィはずっと眠り続けたままだ……。 自分が本当に不甲斐なくて腹が立つ。あれだけこいつを守ると誓っていたのに、俺はまた守れなかった。 心は壊れていても眼差しはこちらをずっと捉えていたのに、無力な俺はどうすることもできなかったのだ。 いつの間にか俯いていた顔を上げ、もう一度ベッドの上を見やりチィの寝顔を確認する。 和之や常磐の親のコネを使ってその筋の権威ある医者にも診て貰ったが、未だ目覚める兆しも見せない。 昨日は健吾が師と仰ぐ精神科の医師がたまたま海外から帰国し、近くにいた為そいつにも診て貰ったがやはり結果は同じで、いつ目覚めるかは分からないと告げられた。 長い年月に渡って監禁され続けていたあいつの心は、既にいつ爆発してもおかしくないほどストレスが蓄積された状態だったのだとその医師は言う。 それが今回のことが引き金となり、一気に噴き出したのだろうと……。 心が癒えさえすれば或いは目覚めるかもしれないが、それはいつになるか分からないし、もしかするとこのまま目覚めない可能性もあると宣告され医師は帰っていった。 「虎汰も流星も、枕許で暗い話をするな。チィが起きたいと思える楽しい話をなるべくしてやれと昨日の先生も言ってただろ?」 「あ、和之……だけどさぁ、」 同じ病院内に入院する朔夜の見舞いから帰ってきた和之が、部屋の入口で渋い顔をしながら2人を叱る。 その手には明るい色とりどりの花が活けられた花瓶があった。意識のないチィでも花の匂いを楽しめるようにと、香りの強いものをこいつは毎日手土産にこうして持参する。

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