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第257話

言い訳を始める虎汰と流星をムシした和之は、花瓶をベッド脇の棚に置くとチィの頭を撫でて優しく声を掛けた。 「チィ今日もいい天気だよ、後で日向ぼっこしに病院の屋上行ってみようか」 まるでチィが起きているかのように話し掛ける和之に、2人もそれ以上何も言えなくなり押し黙る。 普段ならこの2人も明るく振舞い、なるべく声掛けなども積極的にしたりしていたのだが、つい先ほど意外な来客があり少し気落ちしていた。 その『意外な来客』とは今回の騒動の陰の首謀者とも言えるべき人物、吉良 悠真だ……。 本当は常磐も同行していたらしいが流石にこの場に顔を出すのはマズいだろうと、奴だけ病院の待合室に置いてきたという。 チィを苦しめたひとりでもある吉良の来訪に俺たちは少なからず動揺し、虎汰などは怒りがこみ上げて始めは見舞いを断った。 だが奴は病室の前で潔く土下座し、今回の事のあらましと顛末をすべて包み隠さず話すと言うので仕方なく、中へと招き入れることにしたのだった。 「まずは謝らせてくれ。今回のこと、最初からすべて俺は判断を見誤っていた」 「どういうことだ……」 「亜也斗が幼い頃、誘拐されてその時に母親を亡くしたことは話したな? その際、あいつはしばらく誘拐犯に監禁されて拷問を受けていた。父親に対する怨みを子供である亜也斗にぶつけられていたんだ」 「―――――なッ!?」 出だしから衝撃的な告白にどう反応していいか分からず、俺は少なからず戸惑う。それはその場にいた虎汰や流星も同じようで短く息を呑んだ。 しかし俺たちの動揺を気にも留めず、吉良は淡々と常磐の過去を語った。 当時まだ常磐グループの副社長だった奴の父親は、なかなか自分を認めようとしない祖父に焦れて裏ではかなり悪どいことをしていたらしい。 その行いが多くの者の怨みを買い、悪質な嫌がらせや脅迫紛いなことも受けていたという。 けれども常磐の父親はそれらを金と権力でねじ伏せ、更に怨みを買ってしまった。その結果、最愛の妻を亡くし一人息子も誘拐されて精神異常をきたすほどのダメージを負わされたのだ。 吉良が常磐と引き合わされたのはそんな時だった。奴の父親は幼い吉良に、どんなことをしてもいいから正常に戻せと命じたらしい。

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