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第260話〜哀しい目覚め〜(和之side)

吉良が先程までこの病室に来ていたことを聞いた俺は、沈み込むこいつらの中にチィを置いてはおけないと判断し、一旦ここから連れ出すことにした。 ナースステーションからリクライニング付きの車椅子を借りてきて、そこに意識のないチィを風邪を引かないよう厚着させてから乗せ病室を出る。 その際に虎汰や流星もついて来ようとしたが、とりあえずその辛気臭い顔をどうにかしろと言い残し、俺はそのままチィを連れて屋上へと向かった。 外へ出ると優しい風が頬を撫でる。やはり今日は本当にいい天気だ。風で靡くチィの髪を横へと流してやり、車椅子を押してあまり風が当たらず陽当たりの良い場所まで移動する。 そして背もたれの部分を少し倒し、身体に日光が浴びられるようにした。それから隣にあるベンチに俺も腰を下ろして両手を上げ伸びをする。 「……………ふぅっ、」 先程の話を思い出して軽めにだが溜め息を吐いた。皆が沈み込むのは分かる。だがその前にチィのいるところでする話じゃないと、何故それが分からなかったのかと疑問に思う。 この子はただでさえ長きに渡り監禁され傷ついてるのに、更に心を抉るような痛ましい話を聞かせるなんて無神経にもほどがある。 こうして寝ているように見えても、頭は起きている可能性があるのだ。だから先生もなるべく楽しい話を枕元で話して聞かせてやりなさいと言っていたのに……。 まぁ吉良のほうも突然訪ねてきたようだし仕方ないといえば仕方ないのだろうが、やるせない気持ちでいっぱいになる。 こんなことになって虎子ちゃんも胸を痛め毎日見舞いに訪れていたが、今日に限って都合が悪かったのかまだ顔を見ていない。彼女がいたなら問答無用で追い返しただろうに……。 「いっそツラいなら記憶を根こそぎ忘れてしまえればいいのにな……」 そう言葉が口をついて出ていた。 それが逃げだということは分かっている。でも彼が受けた心の傷を癒すのは一朝一夕にはいかない。 あまりに長い年月の間チィは不遇の日々を送り続けていて、この1ヶ月ではとてもじゃないが足りなかった。 だがこのまま眠り続けていると身体が衰弱し、最悪心が癒されて目が覚めたとしても筋力が衰え、寝たきりになってしまう危険性がある。 それなら少しの間くらいツラい記憶を封印しても、バチは当たるまいと思ってしまうのは俺のエゴだろうか?

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