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第261話
「目覚めたら安心して笑っていられるように、俺が離れず見守ってあげるからさ。早く起きろよチィ……」
深く眠り続けるチィに俺は優しく語りかけていた。
とその時、一段と強い風が吹き荒れて屋上に干されている包帯やシーツ等がその突風でパタパタと音を立てて靡く。
それは直ぐに止んでくれたが、俺はチィの髪が乱れていないかとそっと車椅子の上を覗いた。
するとそこに横たわる彼の睫毛が微かに震えているのが目に留まり、まるでスローモーションのようにその瞼がゆっくりと開いていく。
俺はそれを呆然と見ていた……。
「…………ぅう?……和之…さ……ん……?」
「…………………チ、チィッ」
本当にゆっくりゆっくりと開いたチィの瞳に俺の驚いた顔が映る。
それはとても間抜け面だったけれど、直ぐに嬉しさがこみ上げてきて俺の胸を熱くした。
「おはようチィ……やっと…目が覚めたねッ」
「ん………ボク……お寝坊さん、した…の?」
「ううん、俺が勝手にチィが目が覚めるのを待ち遠しく思っていただけだよ」
完全に目を覚ましたチィの頬に手を当て、優しく親指の腹で撫でてやる。
そうすると彼は擽ったそうに目を細め、でも嬉しそうにクスクスと笑った。
「みんなもチィが目覚めるのをずっと待ってたんだよ? 虎汰や流星、朔夜も虎子ちゃんもこの事を知ったら喜ぶ。それからもちろん煌騎もね!」
「……煌…騎?……んと……それ、だぁれ?」
「―――えっ、」
その瞬間、俺は自分の耳を疑った。
チィはいま何と言ったのだろう。彼が唯一心を許し、全面的に信頼しきっていた煌騎の名を……まさか忘れている?
そこでさっき俺が誰ともなしにポツリと呟いた言葉を思い出した。
『いっそツラいなら記憶を根こそぎ忘れてしまえればいいのにな……』
―――あぁ、俺は迂闊な言葉を口走ってしまったのだと、その時になってようやく己の失態に気がついたのだった……。
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