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第262話〜ボクが失くしたものは何ですか?〜

長い長い眠りから覚めると、そこは青空が広がる病院の屋上だった―――…。 「はい、チィくんもういいよ。検査はすべて終わったから、診察室の前でお名前呼ばれるまで待っててね」 「う……うん、分かった」 目が覚めてからボクは看護士さんに目まぐるしく病院内を連れ回されていた。 何でもボクは1ヶ月以上も眠り続けていたらしく、突然なんの前触れもなく目覚めちゃったからその要因を探るんだって……。 痛いことされるの? って聞いたら、血液を採取する時に注射の針でちくんとするくらいで、あとは全然痛くないっていうから怖かったけど我慢した。 それにボクの隣には和之さんもいる。手を繋いで顔を見上げれば、偉かったねと褒めてくれて頭を撫でられた。ボクは嬉しくなってうふふと笑い彼の肩に凭れ掛かる。 「さっきチラッと看護士さんに聞いたけど、何処も悪いトコはないってさ。この分だと直ぐに退院できそうだね」 「ホント? じゃあボクまた和之さんと一緒のお布団で寝られる?」 「……え?………あ……あぁ、そうだね」 ボクの問いに何故か和之さんが言葉に詰まり、答え難そうに苦笑いしながら返事を返した。 不思議に思ったけどすぐに看護士さんにお名前を呼ばれ、彼に付き添われながらも診察室へと連れていかれる。 そして病院のお医者さんの前に2人で並んで座った。ボクの担当医だという先生はとても若くて綺麗で、柔らかく微笑む笑顔が素敵なお兄さんだった。 絹糸のように細く肩下まであるブラウンの髪を髪結い紐で後ろに結び、何処か白衣の下は作務衣という変わった服装をしている。 「茨 チィさん、検査の結果はすべて正常でした。なんの問題もありません。ただ1ヶ月も眠り続けていたので多少筋力が衰えていると思いますので、今後は体力を回復しつつリハビリで筋肉を付けていきましょう」 「……あの先生、チィに記憶が抜けているとこがあるのはどうしてですか?」 先生から説明を受け、ボクはちんぷんかんぷんだったけど隣の和之さんがすべて受け答えしてくれるので、とりあえず任せておく。 そしたら不意に彼がそう先生に尋ね、2人の間にしばらく沈黙が続いた。 「おそらくですが彼はこれまでに壮絶な体験を、本人の意思に関係なく強いられてこられた。そんな中で大切に想う人ができ、彼は自分の過去を知られたくないと強く心に願ってしまったのではないでしょうか」

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