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第266話
それをボクもこっそりと盗み見る。彼が何者かは目覚めてすぐに教えられて知っていた。
この怖いくらいにお顔が整った綺麗な男の人は、和之さんの所属するチームの総長を務める人で、このボクを拾ってくれた人でもある。
お名前は確か白銀 煌騎……。
でもその名を聞いてもピンとこなかった。
そもそもボクには彼らに拾って貰う以前の記憶がない。今まで何処で何をしていたのか、どうしてあの日ひとりで森の中で彷徨っていたのかすら覚えていなかったのだ。
そんなボクを彼は保護し、住む場所も食べる物も与えてくれたという。それからボクの遠い親戚だという健吾さんとも引き合わせてくれたそうだ。
なのに何故か彼の記憶だけがない。
他の人のことはちゃんと覚えているのに……。
このことに戸惑いは隠せなかったけど、直に思い出せるからと宥められて無理に思い出すのは止めた。
それからだろうか、彼がずっとボクのことを見ていると気づいたのは……。
たぶん怖がられると思って直接こちらを見ようとはしないのだけれど、目の端にボクの姿を捉えて終始観察しているようだった。
それが分かるから余計にボクも怯えてしまい、最近は和之さんに強請って外へ連れ出して貰うことが増えた。
目覚めてから数日、ボクらはほぼ毎日のようにみんなの目を盗んでは病室を抜け出し、屋上のいつもの場所でベンチに腰掛ける彼の膝の上に座って甘えさせて貰っている。
「ねぇ和之さん……またチュウ、して?」
「チィは本当にキスが好きだね」
困ったように笑い、でも直ぐに和之さんは望むものを与えてくれた。チュッと軽く音を立てて唇を重ね、優しく頬を撫でて何かを探るように瞳の奥を覗き込む。
なんだろうと思い小首を傾げるが、彼は首を横に振って何でもないと言い、またボクに優しくその唇を触れさせた。
和之さんのキスはとっても優しいから好き。
無理やりされたり、口の中を舌でかき回されたりするのは本当は好きじゃないから……。
「………ぇ………」
「ん、どうしたチィ?」
突然ピタリと動きを止めたボクに和之さんが訝しむ。けれどその問いに上手く応えられない。
ボクは彼としかキスしたことがないハズ……。
なのにどうしてそんなこと思うのだろう?
深く考えようとすると頭の奥がズキンッと痛くなって、それ以上は考えられなくなる。
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