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第268話
それから朔夜さんを見上げ、なんとか許して貰えるよう縋る目で彼を見つめる。
「あの……ボク、朔夜さんが何に怒ってるのか分かんないけどっ、でも……もう許してあげて? 和之さんこんなに落ち込んで可哀想、ボク……代わりに怒られるからっ、だから……んと、」
「……………チィ、」
必死にお願いしたら今度は朔夜さんがとても悲しそうなお顔になってしまい、もうどうしたらいいのか分からなくなって涙目になってしまう。そしたら彼に頭を優しくポンポンと撫でられた。
「分かったよ、とりあえず今回のことは見なかったことにする。でも……」
そう言って朔夜さんはもう一度和之さんに向き直る。何を言われるのか分かっているのか、彼も潔くこくんと頷いた。
「もうこんなことはしない。例えまた彼に強請られたとしても今度はちゃんと断るよ、悪かった」
「ならいい。記憶を取り戻した時、悲しむのはこの子なんだからそれを忘れるなっ」
朔夜さんは深い溜め息を吐くと和之さんの謝罪を受け入れてくれ、ボクもホッと息を吐く。それから暫く何も話さないまま屋上で寛いだあと、3人揃って病室へと戻った。
するとそこには普段お仕事がお医者さまだからか忙しいらしく、平日は見舞いに来れないと聞いていた健吾さんの姿があり驚いてしまう。
でもボクの唯一の身内だから突然の来訪にも喜んでしまい、すぐさま彼に擦り寄っていった。
「健吾さんいつ来たの? ボク、あの……お部屋いなくてごめんなさいっ」
「ははっ、いま来たトコだから大丈夫だよ。チィ、元気にしてたか?」
健吾さんは擦り寄るボクを抱き上げてくれて、そのままベッドの上に腰掛ける。久しぶりに姿を見たからか嬉しくて、彼の質問にこくこく頷きながら首筋にぎゅうっと抱きついた。
「今日はチィの退院が決まったから呼び出されたんだ。明日もう一度診察して、問題がなければ三日後に退院だそうだ」
「えっ、本当ですか健吾さん!?」
皆にお茶を用意していた和之さんが、彼にそのお茶が入った紙コップを手渡しながらそう尋ねる。
そしたら病室にいたみんなは既に聞かされて知っていたのか、嬉しそうに頷いてボクにおめでとうと言ってくれた。
一緒に屋上から帰ってきた朔夜さんもそのことは知っていて、実はそれを早く伝えたくてボクを探しに来てくれたのだと教えてくれる。
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