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第269話
「退院したらどうする? ウチ来るか、チィ」
健吾さんが不意に神妙な顔付きでそう尋ねてきた。その言葉の意味が分からなくて、ボクはこてんと首を傾げてしまう。
すると彼は窓際に立つ白銀さんを振り返った。
それでようやく健吾さんの言いたいことが分かって気まずくなってしまう。
ここ最近ボクがあからさまに彼を避けているのを、虎子ちゃんか担当医のセンセイ辺りから聞いていたらしく、健吾さんは記憶が戻るまで自分の家においでと言ってくれる。
でもボクは和之さんからどうしても離れたくなくて、その返事を濁し俯いてしまう。するとそれを見かねた朔夜さんが控えめに溜め息を吐き、ひとつの提案をしてくれた。
「いまは無理に2人を引き離すべきじゃないと思う。しばらくは和之にチィを預けてみたら?」
「だが、それだと……」
「―――いや、チィがそれを望んでいるのならそうすればいい。俺のことは気にするな。寧ろ和之がつきっきりで見てくれるならその方が俺も安心できる」
「………煌騎………」
まるで何かに堪えるように言う彼に、皆が悲しそうに顔を歪める。けれどそれに気が付かないボクは許しを得たと勘違いし、嬉しくなって和之さんに両手を拡げ抱っこを催促した。
彼は困惑げな顔をしたまま、それでもボクを抱き上げて近くのパイプ椅子に腰を下ろす。
「じゃあ当分の間はこいつに任せるか……。和之、チィを頼んだぞ」
「はい、分かりました」
真剣な顔で頷く彼に健吾さんも頷き、ベッドから腰を上げるとボクの担当医とこれから退院の段取りを進めてくると言い残し、病室を出ていった。
あとに残された虎汰や流星くんたちは思い思いに寛ぎ始め、虎子ちゃんと和之さんは病室に備え付けてある棚から衣類など、持ち帰るボクの私物を片付けだす。
ベッドの上に戻されたボクはそんな彼らを眺めながら、ようやくあの倉庫に帰れるのだという喜びを噛み締めていた。
その間、彼がひとり窓際から離れもせずただ悲しげにこちらを見ていたとも知らずに……。
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