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第273話
だけどボクは呑気にもアップで見る朔夜さんのお顔はとっても綺麗だなぁとか、まつ毛長いなぁとか思っていたら、すぐに唇を離した彼がペチッとおでこを叩く。
「あうっ!? 痛…ぃ……」
「コラ、なに流されてキスを受け入れてるんだチィ! 少しは抵抗しろよっ」
「うぅ?」
キスしてきたのは朔夜さんのほうなのに、どしてボクが怒られるのだろう? 理不尽だ……。
でもまたチュッチュッと今度は2回、間を空けてキスをされ瞼を瞬いた。記憶がない間はこういうことしちゃいけなかったのではないだろうか……?
ワケが分からずされるがまま呆然としていると、朔夜さんが呆れた顔をして深い溜め息を吐いた。
「チィは一旦心を開くと無限だからなぁ、もっと男に対して警戒心を持つように教育し直さないと……。これは矯正に時間がかかりそうだ」
「んー、朔夜さん……ボクも男の子だよ?」
「はいはい、そうだな。でも他の男に自分がどう見られているか、そろそろチィは自覚しなきゃいけないぞ。じゃないと……」
「じゃないと?」
「お前の大好きな和之や煌騎が大変だ。それにここにいるメンバー全員が苦労することになる。守るにも限度があるからな、俺たちは残念ながら万能じゃない」
「――――ッ!? 」
言われてハッとした。それはボクだけの問題じゃないのだと気づかされる言葉だった。自分のせいで己が痛い目をみるのならばまだいい。だがそれに巻き込まれる形で彼らが辛い目に合うのは嫌だ。
そのことをボクは真剣に考えなければいけない。同じことを繰り返さない為にも……。
―――ん? 待って、同じこと……?
それじゃまるで以前なにかあったみたいな言い方だ。――ってあれ、ボク大事なことを忘れてる気がする。でもっ……なんだっけ、ちっとも思い出せないっ!?
「………ィ……チィッ! 返事しろっ、チィッ!!」
「…………う?………」
気がつけばボクは朔夜さんに両肩を掴まれ、ガクガクと前後に揺さぶられていた。
意識が浮上したと同時に今まで何を考えていたのかが吹き飛んでしまい、ボクは間の抜けた返事を彼に返す。
流石にそれには一瞬ムッとされたものの、朔夜さんはやっと焦点の合うようになったボクに胸を撫で下ろした。
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