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第275話
実は倉庫に帰ってきてすぐ、ボクは2階に上がろうとして何かの記憶がフラッシュバックし、気を失ってしまったのだ。
だからいまは2階へ上がることは控えている。
もう少し記憶が安定したら気を失うこともなくなるだろうと、電話口で健吾さんにアドバイスを受けての処置だった。
恐らく虎汰や流星くんはそのことを気遣って、このお部屋でみんなと一緒に夕飯を食べようと提案してくれたのだろう。
でもこの場に白銀さんの姿がなくて首を傾げた。虎汰たちが持ってきたトレイの上にも5人分の食事しかなく、後ろから抱き締めてくれる和之さんの顔を振り返って見上げ、そのことを尋ねてみる。
すると少し気まずそうにではあるけれど彼が笑い、ボクの問いに答えてくれた。
「煌騎はさっき出掛けたよ、何か用事があるとかで夕飯もいらないってさ」
「……そう、なの?」
「うん、鷲塚の家に行ったみたいだからそこで食べてくるんじゃないかな」
「……鷲…塚………」
なんだろう、その名前を聞いて胸がぎゅってなって苦しくなった。思わず胸に手を当てて衣服を掴み痛みに堪えていると、和之さんが心配そうにボクの顔を覗き込んでくる。
「………チィ、大丈夫?」
「んん、だいじょぶ! なんでもないよ和之さん」
ボクは首をブンブン振ってニッコリと笑い返した。きっとこの痛みは気の所為だ。だってボクはあの人のことを何も知らないのだから……。
身体の向きを反転させて和之さんに抱きつき、彼の首筋に顔を埋める。思ってることが顔に出易いから隠したのだ。
それを見ていた朔夜さんは苦笑いし、けれど気づかないフリをして未だに突っ立ったままのボクたちを呼び寄せた。
「お2人さんはいつまでそうしてる気? ラブラブなのは分かったからさ、さっさとこっちに来て座ったらどう」
「あうっ、ごめんなさい朔夜さん」
「そう急かすなよ朔夜、別にゆっくりしたっていいだろう? まったく、チィ気にしなくていいからな。あいつ腹が減って少しイラついてるだけだから」
「う…うん、でもボクもお腹ちょっと空いてるから」
そう言うと和之さんはクスリと笑い、じゃあとボクを抱き上げて即席のテーブルの前へ連れていってくれる。
そしてそのまま床に座ると当然のように胡座をかいた膝の上にボクを乗せ、ボクと和之さんの夕飯を手元に手繰り寄せた。
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