276 / 405

第276話

「和之、お前までチィを独占する気かッ!?」 即座に抗議する虎汰に便乗し隣で流星くんもそうだそうだと文句を言い始める。 途端に賑やかになった部屋で怒りを堪えるかのように、向かいの朔夜さんはこめかみに長い指を当てた。 「虎汰……吠えてもムダだぞ。こいつ大人しそうな顔して煌騎よりも独占欲が強いからな」 「え、そうなの!?」 「こいつ小学3年の時、近所の女子が俺の取り合いになっていたら『これ俺のだから』って言って笑顔で俺をかっ攫っていきやがったんだ」 「それは……ある意味スゲーな」 感心する流星くんに彼はゲンナリした顔をして大仰に頷く。 たぶん誇張して言っているのだろうと思っていたら、すぐ隣にいる和之さんが気まずそうにして言い訳を始めた。 「あの時はっ、引っ込み思案だったお前を助けてやろうと思って庇っただけだろう! というかそんな大昔の話なんか持ち出してくるなよ朔夜ッ!!」 その彼の慌てぶりからして本当の話なのだろう。ボクはびっくりした。いつも落ち着いた雰囲気であまり前へ出ようとはせず、白銀さんの良き相棒として振る舞う和之さんが実は昔、独占欲の塊だったなんて……意外だ。 静かに驚くボクに気づいた彼が恥ずかしそうに照れ笑いをし、けれどボクの顔を見つめて真剣な顔つきになる。 「でもそうだな、チィに関しては少しヤキモチ焼きになってしまったかもしれない。それは認めるよ」 「うわっ、結局は惚気んのかよウゼェッ!!」 虎汰が絶叫してみんなが大爆笑する。いつもの風景にボクはほっこりした。――あぁ、ボク本当に()()へ帰ってきたんだなぁってつくづく思う。 あの時はもう此処には帰って来れないと思っていたから、感動がひとしおだ……。 「――――痛ッ、」 また何かの記憶が過ぎって頭が痛くなる。 倉庫に帰ってきてこれが頻繁になってきた。思い出す前兆なのだろうが、ボクは怖くて仕方がない。 昔の記憶を思い出してしまったら、もう此処にはいられなくなる。その強迫観念に囚われたボクは無意識に、思い出しかけた記憶を忘却の彼方へ押し戻してしまっていた。 幸いにも誰にもボクの異変に気づかれずに済み、その後はみんなで楽しく夕飯を食べたのだった。 でも朔夜さんがチラチラとボクと和之さんのほうを見ては俯き、グッと眉間に皺を寄せて何かに堪えるようにしていたのを最後まで気がつかなかった。

ともだちにシェアしよう!