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第277話〜あいつの為にできること〜(煌騎side)
ーーー少し遡ってチィが目覚めた辺り……。
「そこのアナタ、ここは禁煙ですよ?」
病院の中庭で青空を見上げながらタバコを吹かしていると、背後から声を掛けられた。
チィがまた病室を抜け出し和之と屋上へ行ったのを見送った後、ムシャクシャする気分を紛らわそうと中庭へ出てきたが……。
そうか、病院は何処も禁煙だったなと思い出す。この老け顔のお陰かこの歳で喫煙しても、注意を受けたことは未だかつて1度もなかったがついうっかりしていた。
だが相手をするのが面倒で振り返ろうか迷っていると、声を掛けた男は俺の隣まで歩み寄ると無言のまま、携帯灰皿の口を広げてココに入れろと催促する。
ウザい奴に見つかったと観念した俺は、咥えたタバコを突き出されたソレに入れて消した。
すると男は俺が素直に従うと思っていなかったのか、一瞬だけ驚いた顔をし次の瞬間には満面の笑みに変わる。
「ふふ、やはりアナタは見た目ほど恐ろしくはなかった。タバコを消してくれてありがとうございます♪」
今までにそんなことを言われたことなどない俺は、思わず面食らってそいつの顔をマジマジと見た。
男は病 院 の医師なのか白衣を身に纏ってはいるが、その下に着ているのは作務衣で叉も面食らう。
それがよほど面白かったのか目の前の男はクスリと笑うと、俺にベンチに座らないかと勧めてきた。
突然の申し出に訝しみ、眉間に皺を寄せて推し量るように男をまた見る。
するとその男は……、
「アナタは白銀 煌騎さん、ですよね? 私は茨 チィさんの主治医の加住 と申します。前からアナタとはじっくりお話してみたくて、実はこっそり機会を伺っておりました」
面と向き合って名を名乗った。
加住という名に聞き覚えがあった俺は、あぁなるほどと妙に男の言動に納得して指示に従う。
野郎2人が並んで近くのベンチに腰を下ろし、膝の上に肘を乗せてしばらく無言のまま地面を見つめる。
はたから見たら変な絵面だろうな……。
何も話さない男に痺れを切らした俺は、深く溜め息を吐いてまた腰を上げようとする。だがそれを阻止するように言葉を掛けられた。
「アナタにとってチィさんはどんな存在ですか?」
「…………それは質問か? それとも確認?」
「両方です。今後チィさんの治療方針を決める上で重要なことですので、できれば教えて頂きたいのですが……」
どこまでも温和な顔つきでニコニコと尋ねる加住に、正直毒気を抜かれる。
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