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第278話
こんな優男に威嚇しても仕方ないかと漸く肩から力を抜いて、俺は背もたれに身体を預けた。
すると俺が警戒を解いたのを機に加住も息を深く吐き、リラックスした形でこちらに向き直った。
その様子を見てどうやらこいつも緊張していたのだと知る。
まぁ老けては見えるが今は一応学生服を着ているしこの銀髪 だ、当然といえば当然か……。
誰でも好き好んで見るからに不良だと分かる男に、自ら進んで関わりを持ちたくはないだろう。己の自虐的な思考にフッと鼻で笑うと、加住は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか? 私、なにか失礼なことでもしましたでしょうか」
「いや、何でもない。それで? なんだったか……あぁチィをどう思ってるか、だったな」
「あ、はい! 私はアナタの気持ちが知りたい」
またもや真面目な顔つきに戻ったそいつは、身を乗り出すように近づき俺の返答を待つ。
その姿勢からこの加住という男はどの患者にもこうして真摯に向き合い、その家族とも寄り添って治療に当たっているのだと見受けられた。
こいつならチィを任せられる……。
そう確信した俺は加住にチィのことをどう思っているか答えた。
「そうだな、あいつは俺の半身だと思ってる。だから例え忘れられようと傍を離れるつもりはない」
「つまりチィさんがアナタをどう思おうと、これまで通り彼を『愛している』と……?」
「フッ、陳腐な言葉は使いたくないがあいつのことは大切に想っているし、心から『愛している』……これで満足か?」
「……ありがとうございます、その言葉が聞けてようやくチィさんの治療方針が固まりました。……白銀さん、アナタにはチィさんの記憶から完全に消えて頂きます」
「――――ッ!?」
冷酷なことをサラリと言う加住に、俺は短く息を飲んだ。だが仮にもこいつは医者だ、冗談で言っているのではないのだろう。
そのことを理解すると同時にその根拠を聞くまでは、口を挟まないよう鋭い眼差しで奴を見据えた。
話の腰を折られないと悟った加住は眉根を少し下げ、俺に哀れみの目を向けながらも言葉を続ける。
「彼の過去はあまりに壮絶すぎた。恐らく記憶が戻ったとしても、アナタという存在がいる限りチィさんはまた心を痛め壊れてしまうでしょう。ですから催眠術で記憶を心の奥深くに封印しようと思います」
ご理解頂けますかと、最終宣告を突きつけられ俺は固く瞼を閉じた……。
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