281 / 405
第281話
どうやら苛め過ぎたようだと反省し宥めるように優しく撫でてやれば、今度は照れたようにその手を払い除けられる。
相変わらずの天の邪鬼ぶりに思わず苦笑が漏れた。和之もよくこんな気難しい男と15年もの間、ずっと片時も離れず一緒にいられたものだと感心する。
親同士の交流が深く半ば無理やり押し付けられたのだと以前聞いた覚えはあるが、和之の性格からして放ってはおけなかったのだろう。
こいつは意外に寂しがり屋なところがある。
親に構って貰えず育児放棄されていた経歴を持つため、朔夜は極端に人に甘えるのが苦手だった。それを和之はいとも簡単に手懐けたのだ。
まぁ餓死寸前のところを救い出し、今のチィのように構い倒したのだから当然の結果だろうが……。
暫しの沈黙の後、倉庫を出た時から言おうと思っていたことを俺は口にしていた。
「朔夜……和之をチィに譲ってやってくれないか」
「―――はッ!?」
唐突に告げた言葉は奴を驚かせてしまったようだ。驚愕の眼差しでこちらを見る朔夜に、多少の罪悪感が募り苦笑が漏れる。
だが直ぐに俺の物言いが気に入らなかったのか、奴は睨むように眼を鋭くした。
「和之はモノじゃない! そんな言い方あいつらに失礼だ!! それにそもそもなんで俺にそんなこと聞くんだよッ」
「さぁ、お前は昔から和之と仲が良かったからな。でも確かに朔夜の言う通りあの2人はモノじゃない、悪かった」
「……なぁ何があったんだよお前ッ、普段なら間違ってもそんな人の意思を無視したような言い方しないだろ! 話せよ煌騎ッ、俺そんな頼りないか!?」
必死にそう言い募る朔夜にしかし俺は、肩を竦めて苦笑を浮かべることしかできない。病院で加住と話したことは今、こいつに明かすことはできなかった。
いずれ知る事にはなるだろうがせめて施術後、チィの辛い記憶がすべて消されてからでなければ意味がない。
事前に話せば朔夜は必ず反対をすることは分かっていたからだ。
ともだちにシェアしよう!

