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第282話
それだけにあの事は絶対に洩らす訳にはいかない。例えそのせいで皆に恨まれようとも……。
朔夜は和之に親友以上の気持ちを抱いていた。
今はまだ自覚はないようだが、あれだけ四六時中一緒にいるのだ。好意がなければここまでこいつが心を開く訳がない。
そして和之のほうも満更ではないようで、チィが俺たちの前に現れるまでは朔夜に尽くし、それなりに可愛がってもいた。
その2人を俺は故意に引き裂こうとしている。
我ながら親友という名のもとに胡座をかいた友だち甲斐のない奴だと思うが、例えチィのことがなかったとしても未だ2人の仲が進展していないのであれば、今後も発展の見込みがない可能性は十分にあった。
その証拠に和之はチィと出会った時から急速にあいつに惹かれ始め、朔夜もそれに気づきながら一応は焦っていたが無理に止めようとはしていない。
男同士という壁がそうさせたのだろうが、本当に惚れているなら迷いはしない筈だ。この俺のように……。
このまま上手くいけば和之は必ずチィを愛し、大事にしてくれる。それにチィも俺の存在を抹消さえすれば、和之を受け入れ心から愛するだろう。
胸が焼け付くように痛むが俺ではあいつを幸せにしてやれないのだから、これくらいはどうということはなかった。
傍にいられない分、あいつに及ぶであろう厄災は払い除けてやればいい。愛音も俺がチィの傍から離れたと知れば、もう攻撃はしてこないしだろうしさるつもりもない。
これからはあの女の傍に張り付き、俺が見張っていればいいだけのこと……。
そこまで考えてふと視線を感じて隣を見れば、悲しい目をした朔夜が黙ったまま俺のことをじっと見ていた。
けれども何か言うでもなく重なった目線はそっと逸らされ、そのまま奴は踵を返し俺を置いて駐車場へと歩いていく。
その後ろ姿をぼんやりと眺めながら、朔夜の背に心の中で詫びた。
それから数日後、健吾立ち会いのもと医師である加住の手によって、チィの記憶から俺の存在は完全に封印されたのだった―――…。
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