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第285話

「そう落ち込まないでください。一応こちらもプロですので、まだ高校生というご身分のアナタ方に正体を見破られる筈がないのですから……ね?」 そう宥めるように言われ余計惨めになった。まるで自分の能力を小馬鹿にされたような気分だ。だがそう言われて言葉を返せない自分がいるのも事実……。 すべてにおいて俺は経験が足りないのだ。 苦虫を噛み潰したように顔を顰め加住を睨むが、奴には当然ながら堪えず微笑みすら浮かべられていた。 「アナタは私の雇い主の底知れぬ『執着心』を知らなさ過ぎる。なので教えて差し上げます。例え我々の目をチィさんに向けないようアナタが彼の元から離れたとしても、それは関係ないのですよ? だって()()()はチィさん自身に恨みがあるのですから……」 「――――ッ!?」 加住はそう言うとベンチからゆっくりと腰を上げる。そして俺の傍らまで近づくと耳元でそっと囁く。 「あの子の存在自体が災いの元なのです。でも、私はアナタが気に入りました。もし煌騎くんが私のモノになるというなら、今後悪いようにはしませんが?」 「―――断る! 俺は誰のモノにもなる気はない!」 俺は即座に加住の提示した条件を断った。 それが良かったのかどうかは正直わからない。しかしもうこれ以上チィを裏切りたくはなかった。 あいつのために良かれと思ってしたことは、結局すべて尽く裏目に出てしまっている。その現状を鑑みれば、容易く奴の申し出を受け入れるのはあまりに危険過ぎた。 でもそうなるとこの病院にはもういられなくなる。いや、そもそもこいつが()()()()の人間だと判明した時点で、転院するなりの処置をするべきだ。 頑として受け入れないと告げると、加住はやれやれという顔をして肩を竦めたあと未練なく踵を返す。 「ふふ、今回はただの様子見と警告が目的ですからまぁいいでしょう。ですがチィさんの記憶からアナタの存在を完全に封印できたので、こちらは上々です」 「だったらさっさと去れ! もう二度とチィの前に現れるなッ!!」 「それは無理だと思いますよ? いつの日か必ず私が必要になる時がくる。その時を楽しみにしてますよ、では」 そんな不吉な事を言い残すと、加住は院内へ戻る為に歩みを進める。――が、ふと何かを思い出したのかまたピタリとその足を止めてこちらを振り返った。

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