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第286話

「そうそう、チィさんですが早急に和之さんと心身共に結ばれることをオススメします。故意に記憶を弄り回したので万が一アナタのことを思い出した場合、彼の精神は修復不可能のほどに崩壊(ダメージ)を受け廃人になるかもしれませんので……」 最後の爆弾を投下すると奴は一切振り返ることなく、俺の前から去っていったのだった。 暫くは何も考えることができずただ茫然とする。俺はまた決断を間違った。あれほどもう同じ過ちは犯さないと誓った筈なのに……。 俺はあの時どうすれば良かった? あいつの言うことなど間に受けず、自分のことを忘れられるのは嫌だと駄々を捏ねれば良かったのか……? そう自問自答を繰り返すが、何度考えても同じ決断を下したと思え堂々巡りとなる。 それがいつかバレてチィを苦しめる結果になるのだとしても、それまではあいつが幸せに生きていられるなら俺は何だってするだろう。 和之だってチィに惚れたならきっと、一生あいつを大事に想ってくれると確証があったからこそ俺も踏み切れた。でも……、 「……俺は空回りばかりして、本当バカみたいだな」 天を仰ぐとともに上から水滴が頬にポタリと一滴落ちる。あぁ、雨か……と、思う間もなく空からは大量の雨粒が降り注いできた。 俺は雨水に全身を打たれながら、チィのことをただただ想った。 心の中ですまないと詫びながら……。

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