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第287話〜溢れる想い〜(和之side)
今日チィが無事に退院できて倉庫へと戻ってきた。
あの日常磐たちに連れ去られてから丁度2ヶ月が経っていたが、その2ヶ月は俺たちにとっても短いようでとても長く感じるものだった。
そして漸く彼の姿が倉庫内にあるのを見て、胸を撫で下ろし帰ってきたんだなと実感する……。
だが喜ぶのもつかの間、彼は2階に上がる階段で何か記憶を思い出し掛けたのか、頭を抱えてその場に蹲り気を失うように倒れたのだった。
どうしていいか分からず健吾さんに相談したところ、安定するまでは2階へ上がるのは避けたほうがいいとのことだったので、とりあえず俺の部屋で預かることにする。
当然のことながら此処へ入ったのは初めてだったなのに、チィは必死に思い出そうとしてくれて申し訳ない気持ちになったが、少しずつ思い出せばいいからと納得して貰った。
宥めている間どうしても彼にキスがしたくなって困ったが、朔夜の顔がチラつきなんとか我慢する。
その際に俺もチィのことを愛していると伝えられなかったのが、とても心残りだ。
逃げるようにチィのおやつを作りに2階へ上がれば、そこには難しい顔をした煌騎と彼に集められた流星と虎汰が既にリビングにいた。
「どうした、何かあったのか?」
「……和之、大事な話がある。悪いがこいつらにはもう先に話した」
その唯ならぬ雰囲気に息を呑む。
あの騒がしい2人が今日はやけに大人しい。その顔は不機嫌も露わで、俺がくるまでに煌騎とヤリあったのは一目瞭然だった。
深い溜め息を吐いて聞く覚悟を決めると、俺は自分の席へ腰掛ける。すると窓際に立って空を見ていた煌騎も、こちらへとやってきて同じように自身の席に座った。
「で、改まって話ってなんだ?」
「話というのは他でもない、チィのことだ」
そう切り出した奴の話を、とりあえず口を挟む事なく最後まで聞く。その内容は目の前にいる2人同様、許し難いものだったがなんとか我慢した。
煌騎は病院でチィの担当医と話したこと、俺たちに相談もなく彼の記憶を封印したことやその後、加住と名乗る医師に正体を明かされチィの現状を知らされたことを淡々と話す。
そこに彼の感情は一切含まれておらず、あるがまま自分の身に起こったことを俺に報告した。
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