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第296話
まるで冷水を浴びたように青ざめる。見下ろせばチィは気持ちがついていかず、心と身体の均衡が保てなくて怯えていた。
恐らく彼の中で違和感が拭えず、心が拒絶反応を起こしたのだろう。この涙はその表れだ。なのに俺が突っ走るから止める事もできなくて、ひとり堪えるしかなかった。
そんな事にも気付かず俺の頭の中は既に彼を抱くことしかなくて、挙句の果てに見て見ぬふりをして暴走するなんて……。
あれほどチィを大切にしたいと思っていたのに、とんでもない過ちを犯すところだった。
すぐさま俺は身体を起こすとチィの小さく震える身体を抱き起こし、自分の膝の上に乗せるとぎゅうっと力いっぱいに抱き締める。
「ごめんチィッ、俺チィの気持ちも考えないで突っ走ってた! 本当にごめんッ!!」
「……和之さ……なんで、謝る…の?」
「だってチィ泣いてるっ、イヤだったんだろう?」
「…………う? あれ、ホントだ……悲しくなんてないのに、なんでだろ……」
自分の頬を伝う涙を今更ながら気づき、慌てて拭い照れ笑いを浮かべた彼に堪らなく罪悪感が募る。今も涙を拭う手がぶるぶると震えて痛々しかった。
だからその手を取って唇を寄せる。少しでも彼の心が落ち着くように……。
「もうチィの気持ちを蔑ろにして事を進めたりはしない、誓うよ……。本当に俺に抱かれたいと思うまで、いつまででも待つ」
「……和之さん……ボクならだいじょぶだよ?」
「うん、でもこれは俺のケジメでもあるから。チィをちゃんと心ごと受け止めたい」
それが彼を諦めざるを得なかった煌騎への、せめてもの誠意だと思ったから……。
けれども1度昂った身体はなかなか冷めてはくれず、チィに寝間着を着せると俺も適当に衣服を着て、夜風に当たってくると部屋をあとにした。
扉を開くとそこには何故か朔夜が立っていて、何も言わないが気遣わしげにこちらを伺ってくる。
あのあと誰かから例の件の説明を聞いたのだと察した俺は、苦笑を浮かべると首を横に振り所在なく両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
それを見た朔夜はあからさまにホッと胸を撫で下ろし、でも直ぐに俺の心情を察して顔を引き締めた。
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