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第298話〜気になる視線〜

倉庫へと戻ってきてから2週間が経った……。 あれからみんなの献身的な介護のお陰でボクは見る見る間に体力が回復し、今日からまた学校に復学する事となった。それが純粋に嬉しい。 幸いにも和之さんと一線を超えそうになったあの日を境に、ボクの記憶は徐々に安定し始めて2階へも上がれるようになっていた。 けれども彼がボクの身体に深く触れたのはあの1度きりで、次の日からはまたキスもして貰えなくなりそれを寂しく思う自分と、何処かホッとしてる自分がいて複雑な気持ちになる。 ボクは和之さんとどうなりたいのだろう……? こんなにも彼の事が好きなのに、心と身体がどうしてだかボクを裏切る。 申し訳ない気持ちでいっぱいなのに優しい和之さんはそんなボクに、失った記憶同様に慌てずゆっくりとこの関係を進めていこうと言ってくれたのだった。 「チィ久しぶりの学校でしょ、ホント元気になって良かったね♪」 「うんっ、すっごく楽しみなの!」 虎子ちゃんと並んで歩きながら車へと向かう道すがら、2人ではしゃいでいると何処からか視線を感じた。 ピタリと脚を止めて辺りをキョロキョロと見回すけど和之さんや朔夜さん、それに虎汰や流星くん以外に人はおらずその誰もがボクを見ていなくて首を傾げる。 でもひとりだけ人数が足りないことに気づき、虎子ちゃんにその事を尋ねた。すると彼女も「あ、ホントだ」と声を洩らして同じように首を傾げる。 そして後ろを振り返り和之さんらに彼の所在を聞いた。 「ねぇ和之さん、煌騎くんは?」 「あぁ、あいつは暫く別行動をする事になったんだ。チィの記憶がまだ不安定だからね」 「そうなの? でもそこまでする必要あるのかな、だってこれからも私たちずっとチィと一緒にいるのよ?」 「ははっ、俺もそう言ったんだけどね……」 困ったように眉を下げた和之さんに、ボクは無意識に胸元に手をやり衣服をぎゅっと掴む。 なんだろう、胸が痛い……。 彼の事だけを忘れているから、ボクは嫌われてしまったのではないかと悲しくなった。 でもそれはないとみんなが言うから、なるべく気にしないようにしてたけどやっぱり気になってしまう。 しゅんと項垂れていると虎子ちゃんが頭を撫でてくれ、大丈夫だからってこっそり励ましてくれた。

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