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第299話

それからとりあえず今日のところは彼抜きで登校しようという話しになり、白銀さん所有のものだという白くて大きな車に皆が乗り込む。 その間もやはり何処からか視線を感じて何気なく後ろを振り返れば、2階の窓辺に背の高い人影がこちらを見下ろしているのが見えた。 ここからでは遠く離れ過ぎていて顔はよく見えなかったけど、髪色が白っぽかったからたぶん彼だ。 でもボクが振り返ったからかその姿は直ぐに引っ込み、もう現れることはなかった。 誰もいなくなった窓を見上げていると隣の虎子ちゃんが訝しみ、どうかしたのかと聞いてきてくれる。 だからボクは慌てて首を左右にブンブンと振り、彼女に促されるまま車へと乗り込んだ。 その際にもう一度だけ窓辺に目線を向け、そこに彼の姿がないのを寂しく思いながら未練を断ち切るようにまた前を向き、何かに堪えるよう下唇をそっと噛んだのだった。 車を走らせること数分後、窓から懐かしい校舎が見えてきてボクはワクワクする気持ちをなんとか抑えながら、車を降りる時を心待ちにする。 そんなボクをみんなはクスクスと笑い、けれどもその眼差しはとても暖かくて優しく見守ってくれているようだった。 「チィ興奮するのは分かるけど、私の話も聞いて? 今日は煌騎くんがいないから私も先に車から降りるから、チィは和之さんと一緒に降りてきてよ」 「あうっ、ごめ…なさい……うんっ、えと、分かったよ虎子ちゃん!」 車の窓にへばりついていたボクは彼女に嗜められ、すぐさま姿勢を正すと返事を返す。すると虎子ちゃんは仕方ないなぁと苦笑いを浮かべ、ボクの頭を優しく撫でてくれた。 「まぁ和之さんがいれば何の問題もないと思うけど、変な輩がいても私たちが絶対に近づけさせないから安心して、ね?」 「うぅ?……う…うん、あの……でも……」 「大丈夫だって、どうせ何も起こらないんだし」 彼女の言葉に不安が顔に出ていたのか、虎子ちゃんは宥めるように言う。ボクはそれにぎこちなく頷き、さざ波立った気をとにかく落ち着けさせた。 だけど1度生まれたその不安は、しつこく引いては返し胸を占める。

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