300 / 405
第300話
ボクの悪いクセだ。1度そ れ が頭を占めるとその他の事が考えられなくなってしまう。
考えないようにしても気が緩むと直ぐに悪いほうへ物事を考えてしまって、その思考を振り払おうと無理やり頭をブンブン振れば、隣に座る和之さんがそっとボクの手を握り微笑んでくれた。
「大丈夫、もうチィの周りで何も起こさせはしないよ。俺がついてる」
「和之さん……うん、ありがとう」
その心強い言葉に胸が締め付けられる。今までボクにそんなことを言ってくれる人は、誰ひとりとしていなかったから……。
彼の肩に凭れかかり感謝の気持ちを表すようにぎゅうっと抱きつけば、和之さんはボクの左頬を撫でて頭部にキスを落とす。
それを複雑そうな眼差しで見つめる虎子ちゃんたちにも気付かず、ボクは和之さんと見つめ合って今日は1日学校で何をするかを話し込んでいた。
「……あれ、なんだか今日は人が少ないわね」
暫くして車が校舎に入り静かに停車すると、虎子ちゃんがそう呟く。
言われてボクも外を見てみると確かに彼女の言う通り、いつもは白鷲の幹部メンバーを一目見ようと校庭を埋め尽くすほどの人集りができているのに、今日はその半分にも満たない数しかいないように見えた。
すると朔夜さんが開いていたノート型PCを閉じ、車から降りる準備をしながらもその理由を教えてくれる。
「今日は俺ら久々の登校だから混雑すると思って、事前に人払いしておいたんだ。今いるのは何も知らない一般の子たちだろ」
「あぁ、なるほど! さすが朔夜、根回しがいいなっ」
感心しきりの虎汰にけれど朔夜さんは、首を左右に振り冷めた目線を彼に向けた。そして根回しをしたのは自分じゃないと言う。
じゃあ誰だと彼に問う者はおらず、皆その根 回 し をした張本人が誰かを分かっていた。
―――たぶん白銀さんだ……。
鈍感なボクでも分かる。彼は寡黙だけど常に周りを見ていて、相手に感ずかれる事なく手助けできる人だった。
ボクも入院中は幾度となく彼には助けて貰った事がある。最初はどうして彼の記憶だけ忘れてしまったボクなんかをって思ったけど、今なら分かる気がした。
彼はそういう人なのだと―――…。
仲間思いで誰にでも優しく頼り甲斐のあるリーダー的存在、それが白銀さんの今の印象だった。だけどそれだけじゃなかったような気がして、頭の中がモヤモヤとする。
ともだちにシェアしよう!

