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第301話
いつの間にかボクは眉間に皺を深く刻ませていたのだろう。彼の事を考え出すと頭の奥のほうに痛みが走り、いつもはそれ以上なにも考えられなくて断念していた。
でも今日は痛みに堪えてその先を思い出そうとするのに、それにいち早く気づいた和之さんが心配そうに顔を覗き込み、やんわりとボクを静止する。
「チィ、無理に記憶を思い出そうとしちゃダメだ。身体の負担にもなるから自然に任せようと言っただろ、ね?」
「………う、うん……分かった」
ボクを気遣って言ってくれてる彼に反抗するのも申し訳なくて、結局は和之さんの言う通り素直に従う。
すると朔夜さんは決まって気まずそうな顔をし、余計なことを言ったと詫びる。最近ではこれが周期的に繰り返されいた。
なるべくボクの記憶が戻るきっかけを向けてくれる朔夜さんと、今は無理に思い出す必要はないとそれを止める和之さん……。
彼らのその真意に気づくこともなく、ボクはとりあえず2人に促されるまま車を降りる準備を始める。
いつものように虎汰と流星くんが先に降りて歓声が上がり、次に朔夜さんが今日はひとりで降りていく。
暫くすると虎子ちゃんも車から降りていき、いよいよ自分たちの番だとボクは和之さんの手を握った。
「大丈夫だよ、チィには俺がついてる」
「うん、ボクも頑張るね」
二人きりになった車内で抱き締められ、それにボクも応える。それから虎汰に外から呼ばれてボクたちは手を繋いだまま車から出たのだった。
「やぁチィさん、お久しぶりです。私を覚えていますか?」
「―――えっ、」
不意に掛けられた言葉に面食らう。車内から出たボクたちを出迎えたのは、意外にも女の子たちだけではなかった。車の直ぐ脇には見知った男の人が立っていてボクは驚いてしまう。
その人はいつもの白衣の格好ではなく何故かピシッとした紺のスーツを着ていて、髪も髪結い紐と古風なものじゃなくて普通のゴムで纏められていた。
「―――香住センセ、どして此処にッ!?」
ボクは驚きと興奮で警戒心もなくセンセのところへ駆け寄ろうとしたが、でも険しい顔をした和之さんが繋いだ手をぎゅっと強く握ってそれを阻止する。
疑問に思う間もなくボクは彼の後ろに匿われ、流星くんや虎汰らがスッと前へと躍り出てセンセとボクの間に壁を作った。
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