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第302話
突然のことに戸惑うも、担当医だったセンセに皆がここまで警戒するのはおかしいと流石のボクも気づく。
目の前にある大きな背中を見上げながら彼の制服の裾を掴み、大人しく口を噤んで様子を伺う事にした。
「和之すまない、呼び出してお前らが出てくるまでは全然気配もなかったんだが……」
「いや、この人は気配が消せるようだし物陰にでも隠れていたんだろう。仕方ない」
前にいる流星くんと和之さんが短くそんなやり取りをする。その会話でボクたちが車から降りる直前まで、香住センセの姿は疎か気配もなかったことを知った。
そんなこと常識的に考えて有り得ないと思ったけど、彼らの話す内容では有り得る事らしい。ということはセンセは何か特殊な訓練を受けた人なのだろうか。
でもそんな人が何故ボクなんかを気にかけ、こうしてわざわざ声まで掛けてくるのだろう。ただ純粋に自分の患者だから……?
思った事を前にいる和之さんに話そうとした時、香住センセがボクを見てニヤリと笑った。
「ふふ、そんなに警戒しなくても何もしませんよ。私も今日からこの学園の心理カウンセラーとして常駐することになりまして、私の担当患者でもあるチィさんには挨拶をしておこうとこうして出迎えた次第です」
「――――ッ!?」
驚いたことに今まさにボクが考えていた事を理由に上げて戦慄が走る。でもそう言われてカウンセラーといえど忙しいセンセが、ただのイチ生徒にそこまでするのか疑問が浮かびやはりそれは変だと思い直す。
高圧的に睨みつける皆の目線をものともせず、香住センセは変わらず笑顔で先程からボクに向けた目を離さない。
そのあまりの居心地の悪さに和之さんの衣服を更に強く握るも、それには誰も気付かれず彼の放った言葉のほうに反応し朔夜さんが動く。
スマホを取り出すとすぐさま何処かへと電話を掛け始め、何かの確認を取っている。そして通話が終わると和之さんを見上げ、無言のままコクリと肯定の意味で頷いた。
「どういうコネを使ったのか知らないが、上手く潜り込んだようだな。で、何が目的だ? まさかまたチィに何かしようと企んでいるんじゃッ―――…」
「此処に派遣されたのは本当にたまたまの偶然です。我々心理学者はより経験を積む為こうして時折、学園に席を置かせて貰うんですよ?」
そう最もらしい口上を述べる香住センセに、和之さんらのイライラが募っていった。
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