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第304話

ボクたちはいま屋上の下の階にある、旧視聴覚室にきていた。 しかし教室として使っていた頃の面影はなくここは現在、彼らの学園でのたまり場として使っているとのこと……。 雨の日などにボクも1度だけ来たことがあるお部屋で、私物らしき家具がそこかしこにあってまるで誰かの部屋のように普通に寛げる空間となっている。 部屋の中央にある2人掛けソファに降ろされると虎子ちゃんも透かさずそこへ座り、ボクを膝に乗せて赤ちゃんのように抱っこして背中をポンポンと摩ってくれた。 そのお陰で発作はなんとか鎮まり、涙目になった瞼を開かせゆっくりと彼女の顔を仰ぎ見る。 「ん、もう苦しいの治まった? まだツラいなら私に凭れかかってていいからね、チィ」 「うん、ありがと。でももうだいじょぶだよ」 いつもこうして発作を起こした時は彼女に抱き締めて貰い、耳元で「大丈夫、大丈夫だよ」と繰り返し言って貰ってた筈なのに、何故か違和感のようなものが拭えない。 隣に座り直したボクは和之さんに紙パックのジュースを差し出され、それを見てパァッと顔が綻んだ。 それはボクの大好きな『ちょこ』味のジュース……。 でもたくさん飲み過ぎると鼻血を出してしまうので、1日1個までと決められている。今朝は我慢できなくて早々に飲んでしまった為、今日はもう飲めないと思っていたのにどうしてだろう。 それを手に取るのを躊躇っていると、和之さんが苦笑して半ば強引に手渡してくれる。 「健吾さんから発作を起こした時だけは特別に、もうひとつ飲ませてもいいよってちゃんとお許しを貰ってるから大丈夫だよ。その代わり急いで全部飲むんじゃなくて、ちょっとずつゆっくり飲んでね?」 「うんっ、ありがとう和之さん!」 彼にお礼を言うと虎子ちゃんにそれを差し出し、ストローを紙パックに刺して貰ってから口に含む。 チューッと吸えば甘い『ちょこ』の味が口内に広がって幸せな気持ちになれた。 それを見てその場にいるみんなも何処か、ホッと胸を撫で下ろしたように見える。

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