305 / 405
第305話
この部屋の窓際には先程までボクを抱き上げ、ここまで連れてきてくれた白銀さんが静かに立っていた。
最近の彼はお空ばかりを見上げている。
でもゆらゆらと揺れる白い雲を見ながらもその実、こちらのほうを時々チラチラと盗み見ているのをボクはもう知っていた。
それは入院していた頃と何ら変わりない。まるで影で見守るように見つめてくれてて、でもやっぱりボクを怖がらせないよう目線は絶対に合わさなかった。
最初はその瞳が怖くて堪らなかったけど、彼の人となりを知るに連れて無性に気になり始めている。
彼はどうしてそんなボクを慈しむような眼差しで見るのだろう?
そしてそんな彼を見る度、ボクは決まって胸の奥が熱くなってくるのだ。何か大切な事を忘れているような、そんな気がしてならない。
なのにその失くした『何か』を思い出そうとする度、和之さんを始め周りのみんなが無理に思い出す必要はないという。
パックジュースを飲みながら彼を見つめていると、和之さんがボクの前に膝を床につけて屈み顔を覗き込んできた。
「チィ本当にもう大丈夫? ごめんね、直ぐに気づいてあげられなくて……」
「ううん、ボクのほうこそ上手く伝えられなくて……あの時、掴んでた服を引っ張れば良かったんだよね。ホントごめんなさいっ」
「発作を起こしてたんだから気が回らなくて当然だよ。1番近くにいた俺が真っ先に気づくべきだったんだ」
そう言ってボクの頬を右手で労るように和之さんは擦る。そのお顔は罪悪感で歪み、とても辛そうで見ていられない。
だからボクは懸命に首を左右に振ってそれを否定した。あれは本当に自分が悪いのだ。だって和之さんは香住センセと大事なお話をしてる最中だったのだから……。
すると向かいのソファに座る虎汰が腕を組みながら、誰に言うでもなくポツリと呟いた。
「でもあいつ、今度は一体何を企んでやがるんだ?」
「だな、煌騎に聞いた話じゃ奴はもうすべき事は全部やったみたいな話しぶりだったのに……」
隣に腰を下ろした流星くんがそれに同意し、同じように首を傾げる。
ボクには何の事だかさっぱり分からなかったけど、それはいつもの事だから話の腰を折らずに黙ってことの成り行きを見守った。
ともだちにシェアしよう!

