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第306話

「もしかしたら雇い主からまた新たな指示があったのかもよ。煌騎はあの女から何も聞いてないの?」 そう言ったのは朔夜さんだ。 彼は1人掛けソファに腰掛けてノート型PCを起動し、顔も上げず画面を向いたまま何か細かい操作を黙々としている。 それにより皆の視線は一斉に白銀さんへ向けられた。けれどそれにも動じず彼は暫く考えた後、こちらに正面を向け口を開く。 「あいつの動きは俺が封じてある。そんな素振りも見せなかったが、神埼のほうは……正直分からない」 敢えてそうしているのか愛音さんの護衛の人は、最近は自分たちに一切近づかないのだと白銀さんは続けて言う。 その男の人は常に付かず離れずの距離を保ち、彼が愛音さんに気を取られている隙に度々姿を消す事があるらしかった。 「何それめちゃくちゃ怪しいじゃんッ!」 「あぁ、俺もそう思う」 プンスカと怒る虎汰に、白銀さんが同意するように頷く。だからこそ探りを入れているのだけれど、向こうもなかなか尻尾を出さず苦戦を強いられてるとの事だった。 彼は愛音さんとその『神埼』という男の人の他にも、自身の恩人だという親父さんの動向も気になるらしく、3人同時に監視するのは難しいようで目が行き届かないのだそうだ。 「なら俺が神埼のほうを監視するよ。屋敷内は流石に無理だけど外へ出たらこっちのもんだし!」 「フン、常に騒がしいお前が尾行なんてできるのか?」 「なんだと朔夜! 俺だって尾行くらいッ―――…」 「へぇ、誰とも口を聞かずただ黙々と人のあとをつけ回すんだぞ? ハッキリ言うけどお前にはムリだね」 まるで小馬鹿にしたように言う朔夜さんに虎汰は憤慨したように怒るけど、実際じっとしてられない性分なのは事実で彼も異論が唱えられないのだろう。 がっくりと肩を落として大袈裟なくらいに落ち込む。でも朔夜さんはウザいから此処で落ち込むなと、容赦なく彼に冷たい言葉を浴びせた。 最近は彼の様子も何だかおかしい。無闇に虎汰をからかっては怒らせたりして、憂さ晴らしをしているような感じだ。 そういう時は決まって白銀さんが間に入り彼の頭を撫でて気を落ち着かせ、ぷんぷんと怒ってる虎汰には流星くんが渋々とだけど宥めている。 違和感だらけの現状にボクは戸惑いが隠せなかった。でもそれを尋ねるとみんなはボクの目を逸らせようと躍起になるだけなので、ここは敢えて何も言わないでおく。

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