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第308話

「さっき発作を起こしたばかりなんだから、もうチィは何も考えないの! 朔夜くんの事は心配しなくても大丈夫よ、煌騎くんが何とかしてくれるわ」 「………本当?」 慰めるように言う虎子ちゃんにボクは縋る思いで見上げる。すると彼女はニッコリと笑い、こくんと勢い良く頷いてくれた。 それは嘘偽りない本心だったのだろう、虎子ちゃんの瞳は真剣そのものだ。 「だって彼はチィにとってかけがえのないヒーローだもの! 彼に任せておけば絶対に大丈夫!!」 「ボクの、ヒーロー……?」 その言葉はボクの胸にストンと落ちた。 そう……だ、彼はボクのヒーローだった気がする。なんでそんな大事な事を忘れちゃってたんだろう? でもそこまで考えた直後、突如として頭の奥に強烈な痛みが走り吐き気を催した。グワングワンと響く痛みが頭を揺らし、乗り物酔いをした時より更に酷くなったような状態になる。 遠くのほうで彼女が悲鳴を上げ慌てる声がしたが、ボクはそれを気に掛ける気力もなくその吐き気と戦う。 何がどうなっているのだろう……。 世界がグルグル回ってて、もうどちらが上か下かも分からなくなった。 異変に気づいた和之さんらがボクの傍らまで駆けつけてきてくれたけど、目を開けていられずソファへと倒れ込む。 意識もどんどん沈んでいって浮き上がれず、まるで海底に堕ちていくように音がくぐもって彼らの声が聞き取れない。 みんなが必死にボクの名前を呼んでいる気がしたけど、遠のく意識をそれ以上は留める事ができなかった。 本当に……ボクはどこまでみんなに迷惑を掛ければ気が済むのだろう。ごめんなさい、本当にごめんなさい……こんなボクを許して……。 「―――チィッ、俺の事を思い出そうとするな!!」 意識が完全に遠のき掛けた時、聞き慣れた優しい声が頭に直接響いてきた。 最近はあまり聞けなくなったけど、少し前までは常に傍で聞いていた気がするその声に、懐かしくて思わず薄らと目を開ける。 するとそこには緊迫した面持ちで、こちらを心配そうに覗き込んでいる白銀さんの姿があった。 「………白……銀さ………?」 「チィッ、お前が楽になれるなら俺は忘れられたままでいいんだ! だからっ、もう…思い出すなっ!!」 切実に訴える彼に胸の奥が苦しくなる。でも同時になにか許された気がして身体の力が抜けた。

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