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第309話〜忘れた記憶のかけら〜
次にボクが目を覚ましたのは翌日の早朝だった。
和之さんの広いベッドの上に寝かされていたボクは、その周囲をぐるりとみんなが囲っていて静かに見守られている中ゆっくりと重い瞼を開ける。
「―――チィッ! 良かった、やっと目を覚ましてくれたんだね!!」
「もうっ、心配したんだからぁ! でも目ェ覚めてホンット良かった! 良かったよぉ、チィィッ!!」
「もう大丈夫なのかチィッ!? 痛いトコない?」
「チィッ、お前は俺らが絶対に守ってやるから! だからもう悩むなっ、心おきなく笑ってろ!!」
和之さんに虎子ちゃん、虎汰に流星くんと次々に声を掛けられてボクは戸惑ってしまう。意識が戻って直ぐなので上手く頭が働かない。
虎子ちゃんに抱きつかれながら周囲を伺うと、彼らの後ろにも健吾さんと朔夜さんの姿があった。
彼らも和之さんたち同様ホッと胸を撫で下ろした様子で、こちらを暖かく見守ってくれている。
でもそこに白銀さんの姿だけがなくて、少しだけ気落ちした。それに気を失う直前の記憶がない。また何か忘れたのかと歯痒く思うも、今のところ違和感のようなものはなかった。
ただ何か重要な事を思い出し掛けたのはぼんやりとだけど覚えている。
「さてと、目が覚めたんなら診察するからみんなは部屋から出ていってくれるか?」
「そうだな、俺たちがいると診察の邪魔になる。虎汰も流星も、あと虎子ちゃんも外へ行こうか」
気を利かせて和之さんがそう言うと、それまでベッドの周りを陣取っていた虎汰や流星くん、虎子ちゃんも重い腰を上げた。
またあとでと声を掛けてみんなはぞろぞろと部屋から出て行ってしまう。だけど朔夜さんだけは俯いたままその場に残り、扉が閉まるのと同時に健吾さんへ向き直った。
「おれ思うんだけどやっぱりこのままじゃダメな気がするんだ! 酷なようだけどチィにはちゃんと記憶を取り戻して貰ったほうがッ―――…」
「―――朔夜ッ、落ち着け!」
顔を上げ一気に捲し立てる彼に健吾さんは待ったを掛け、1度荒ぶった気を落ち着かせる。
興奮のまま話せば感情的になり易く、目覚めたばかりのボクを前に晒すのは良くないと朔夜さんを宥めた。
すると彼はハッと今更ながらにボクのほうを見下ろし、途端に申し訳なさそうな顔をする。その顔はとても思い詰めた感じで、今にも泣きそうな面持ちだった……。
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