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第310話
先ずは診察からと健吾さんは往診鞄から血圧計と聴診器を取り出し、横になった状態のままボクの腕に巻いて血圧を測ったあと、聴診器でシャツのボタンを外した胸に直接当てる。
冷たいそれにボクが「ヒャッ」と短く悲鳴を上げれば健吾さんはクスクスと笑い、直ぐに終わるから我慢してねと軽くウインクした。
「うん、ちょっと脈が早い気はするけど他は異常ないようだ。やはり気を失ったのは心因性のものが強いかもしれないな」
「………しん…いん、せ……い……?」
こてんと首を傾げれば、健吾さんはボクの頭を優しく撫でてくれる。そして開いたシャツを元に戻しボタンを止めながらも目はこちらに向けたまま、ニッコリ笑ってわかり易いように説明してくれた。
「過度のストレスで耐え切れなくなった脳が、嫌な事すべてをシャットダウンしてしまうんだ。チィの発作もこれが原因……つまりは心の病気だ」
「ボク……病気、なの?」
「そうだな、チィの心はいま風邪を引いていて些細なことにも過敏に反応してしまってるんだ。でもきちんとカウンセリングを受ければ直ぐに治るからね」
病気と聞いて不安が募るボクに、だけど彼は大丈夫だからと安心するよう言う。その言葉に真っ先に頭に浮かんだのは香住センセだった。
カウンセリングを受ける際は基本センセと二人きりになる。その時に不思議な味のするお菓子をくれたり、甘い匂いのお香を焚いてウトウトしてしまっても許してくれたりと本当によくして貰った。
それを健吾さんにも話すと彼は何故だか渋い顔をする。ボク何か気に障ることを言っただろうか?
「えと、あの……健吾さん?」
「あ~ごめんごめん、何でもないよ。ところでチィは治して貰うならその先生のほうがいいのかな」
「うんっ、あのセンセとってもいい匂いがするの。その匂い嗅ぐとスゴく懐かしい気持ちになって落ち着く!」
「そっか、どうしてもその先生じゃなきゃダメ?」
突然そんな事を言う健吾さんにボクは不思議に思いまた首を傾げた。彼は普段からあまり人を悪く言わないだけに、何かあるのかと伺うように見るが健吾さんは何でもないと付け加える。
だからボクは素直な気持ちを口にした。
「うぅ……分かんない。でも何でかな、あのセンセじゃないといけない気がするの」
「うーん、それは困ったな……」
本当に困ったような顔をして言う健吾さんに、ボクもどうしていいのか分からず戸惑う。
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