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第311話
するとそれまで黙ってボクの診察を見守っていた朔夜さんが、何かに気がついたようにバッと隣の健吾さんを振り返って凝視した。
「なぁ今の問診ってまさかっ、チィはあいつに洗脳されてるんじゃッ―――…!?」
「まぁ落ち着けって、朔夜……。俺の見立てじゃ恐らく洗脳 まではいっていない。だが煌騎から聞いた話じゃチィがかなり小さい頃からその先生に診て貰ってたらしいからな、強い暗示には掛かっているだろう」
「はぁっ!? それどう違うって言うんだよ! チィの意志を捻じ曲げられてんなら一緒だろッ!!」
憤る朔夜さんはますます声を荒らげ健吾さんは困り果てていたが、彼の気持ちも分かるのか先程よりは制する言葉もどこか優しい。
それに鋭いつっこみにも言い返さないで苦笑いし、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまん、医者の悪い癖だ。医学に携わる者は何かにつけてはっきりと区分を付けたがるが、知識のないお前らなんかにはその違いも分からんだろうしそんな些細な違いどうだっていいよな」
「あ、いや……すまない、俺またカッとなって……」
「ははっ、何だよ急にしおらしくなってお前らしくもない。でもま~仕方ないか、お前は今回モロに影響受けちまってるもんな」
「――――なッ!?」
健吾さんが軽い口調で何かを臭わせると、何故か朔夜さんは顔を真っ赤にさせて俯いてしまう。それを豪快に笑って彼の背中を労るように擦った。
「とりあえず今後はチィから絶対に目を離さないことだ。今の彼はただでさえモノの分別がつかないのに、暗示に掛かり易くなってる。甘い匂いがしたら気をつけろ」
「甘い、匂い……?」
首を傾げる朔夜さんに彼は頷くと、ボクの頭を撫でながら眉間に皺を僅かに寄せ悲しい顔をする。
先程の話でボクは子供の頃からある特定の匂いを習慣的に嗅がされ、暗示を掛けられているらしい。
その匂いを嗅げばどんなに気をつけていてもボクは術者に操られ、下手をすればまた連れ去られる危険性がある事を彼は示唆した。
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