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第312話
今の警戒体制を見直す必要があると判断した健吾さんは、とにかくみんなと話し合おうと決め和之さんらを呼び戻しに腰を上げる。
けれども朔夜さんが何故かそれをやんわりと阻止した。そして首を横へと振り、自分の話がまだだと彼に目で訴える。
健吾さんは少し複雑な表情を浮かべたが、彼と誠実に向き合うためまた腰を床へと下ろした。
「朔夜……、お前の焦る気持ちはよく分かるが今の彼の精神状態はとても危うい。下手をすれば本当に廃人になり兼ねないんだ。医師としてそんな危険は絶対に犯せない」
「分かってる! でも記憶を取り戻したあとこいつがその事を知ったら絶対に悲しむだろっ、そんなの俺だったら絶対に耐えられない!!」
朔夜さんの悲痛なまでの叫びは、話のついていけていないボクですら悲しくなるものだった。
何とかしてあげたくてボクも縋るように健吾さんを見るけど、彼は頑としてそれだけは譲ろうとしない。険しい顔をして朔夜さんを見据え、まるで説き伏すように懇々と諭す。
「お前が言ってるのは和之が彼を抱くか抱かないかの話だよな。だがそれは現段階で判断のできる当事者2人が既に決めてしまった事だ。俺やお前がとやかく言う資格はない、違うか?」
辛い選択をしているのは彼らも自覚している。でも今のボクを守る為にはやむを得ない処置なのだと健吾さんは言う。
ならば身を切られる思いで下した彼らの決断を、自分たちも汲んでやらないかと重ねてそう朔夜さんに説いた。
項垂れる彼の肩を叩き、健吾さんは慰めるように背中を擦る。最近の朔夜さんの行動を誰かから聞いていたのだろう、それも止めるよう優しく諭した。
本当に現段階ではどうにもできないのだからと……。
「必要なら和之は迷わずチィを抱くだろう、でもそれは本当に他に道がなければの話だ。だから朔夜、あの男を信じてやってくれないか?」
「………信じ…る……?」
「あぁ、絶対チィにも煌騎にも朔夜……お前にもあいつは不誠実なことはしない。それは俺が保証する」
キッパリと言い切った健吾さんに暫し呆然としていた朔夜さんだけど、ようやく踏ん切りがついたのかそれに同意するようにこくんと頷いたのだった。
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