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第317話

もしやこれにはコツがいるのだろうか? いや、でも白銀さんは簡単そうにクリアしていたし、他の人も実はボクより早く完成させてしまうのかもしれない。 そう1人でウンウン唸っていると、隣でクスクスと笑う声がする。それに釣られてこっそり白銀さんのほうを見れば、病院で目覚めてから仏頂面しか見たことがなかった彼が、ふんわりと表情を緩め穏やかに笑っていた。 その美しい横顔にボクはしばらくの間、恍惚として見惚れてしまう……。 男の人なのにこの人はなんて綺麗なんだろうと思った。性別を超えた美貌を前に言葉を失ってしまって何も出てこない。 すると無言になってしまったボクを訝しんだ白銀さんが、首を傾げてこちらをゆっくりと見た。 「……チィ、どうした? 体調が悪いなら和之か健吾を呼ぶか?」 「―――だっ、だいじょぶだよッ!? ちょっとボーッとしてただけだから!」 ボクを心配して忙しい2人を呼び戻すと言い始めた白銀さんに慌てて首を左右に振る。それから自分は元気だからと何とか説得して、その場を立ち上がろうとする彼を押し留めた。 危ない、危ない……ボクはまたみんなに迷惑を掛けるところだった。冷や汗を拭ってホッと溜め息を吐く。 でもそれも彼に聞かれたら大変な事になるので、布団の中に潜ってこっそり息を吐いた。 そこへ再びこの部屋のドアをノックする音が聞こえる。ハッとしてサイドボードの上にある時計を見れば時間はあっという間に過ぎていて、もう虎汰と虎子ちゃんが学校から帰ってくる時間帯になっていた。 「どうやら双子が戻ったようだな」 「…………あっ………」 白銀さんがゆっくり立ち上がるのを見て咄嗟に引き止めようとした自分に気づき、それを誤魔化す為にヘラりと慣れない愛想笑いを顔に貼り付けた。 すると彼も振り返って眉を少し下げながら、最後にボクの頭をポンポンして笑う。 「チィも口下手な俺といてもあまり楽しくなかっただろ。すまなかったな、こちらの都合で窮屈な思いをさせて……」 「う…ううんッ、ボク……楽しかったよ?」 「無理するな、堅物の俺と一緒にいて楽しいと思うのは愛音くらいだ」 「ーーーッ!?」 何故だか今はその名前は聞きたくなかったと思った。でも彼にはちゃんと許嫁の彼女がいる。 ――――あれ、『()()』……? なんで彼にそんな存在がいるのをボクは知っているのだろう……?

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