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第323話
「少し長居し過ぎたか、一所に留まるのは危険だな。早くここを移動しよう」
白銀さんが辺りを警戒しながらそう言い、和之さんに視線を送る。それに頷くと彼はボクの背中に手を添え、前に歩き出すよう促した。
物々しい雰囲気の中、屋上へと続く階段を上がり最後の鉄の扉を開け、外気が頬を撫ぜるのを感じて漸く息を吐く。
「和之さんっ、ボク景色眺めてきてもいい?」
久しぶりに見る高い場所から見渡せる街並みに心が踊り、先程の緊張感も忘れてボクは隣を見上げた。
和之さんは一瞬呆気に取られ、でも直ぐに苦笑いをするといいよと言って虎汰と虎子ちゃんにボクの付き添いを頼む。
でも2人を少しも待てなくて了承を得たボクは、杖をつきながら快活にフェンスのほうまて近寄った。
「あははっ、景色は逃げたりしないよチィ!」
「ほらチィ、転ぶから私たちと一緒に見て回ろ?」
クスクスと笑いながらついてくる双子やその後ろで皆が肩を竦め苦笑を零す中、ボクは興奮しフェンスに齧り付く勢いでこの街の景色を遠くのほうまで見渡した。
やっぱりこの街は美しい……。
それなりに近代化は進んでいるのに緑を大切にしているからか、空気は澄んでいるし何処を見ても美しい外観が保たれている。
理由は忘れてしまったけど小さい頃から外へあまり出歩いた事がなかったボクにとって、これほど美しい景色を見られるだけで幸せな気持ちにさせてくれた。
「あれ? あそこ公園の近くのパン屋さん、今日はいないね。こんなに天気いいのにどしたのかな」
ボクの言う『パン屋さん』とは、よく虎汰と流星くんとで行く散歩コースの道なりにあるホットドッグのお店だ。
たくさん歩いた日などの帰りには、お腹を空かせた2人が我慢できずに買い食いをするところでもあった。
だけどカラフルに塗られたワゴンで販売している為、風の強い日や天候によってはたまに来ていない日もある。
「あらホント、どうしたのかしらね?」
「あーあの店なら確かこの前、自分の店出す軍資金が貯まったからワゴンでの営業は閉めるって言ってたぞ?」
一緒になって虎子ちゃんと首を傾げていると、後から来た流星くんがぶっきらぼうにそう教えてくれた。彼の返答に隣に並ぶ虎汰も頷く。
流石は毎回あそこに立ち寄っては買い食いをしていただけあって、2人はいつの間にかあの店長さんと仲良しになっていたようだ。
何だかズルい……。
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