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第325話
まるで置いてきぼりにされた子供のように、ポツンと和之さんが出ていった鉄の扉を眺めていると、隣に白銀さんが立ち頭をポンポンした。
「気にするな、あいつのアレは好きでやってるんだ」
そう言って彼はボクの眼を注意深く覗き込む。
その少しの変化も見逃さないというような強い眼差しに、ボクは萎縮したが上目遣いで見返してコテンと首を傾げた。
すると白銀さんは何でもないと言って首を振り、直ぐに目線を逸らしてボクの頭に乗せていた手も上着のポケットに突っ込んでしまう。
彼が先程の自販機の前でのことを気にかけてくれているのだとは知らず、ボクはますます不思議に思って首を傾げたのだった。
だけど今の仕草だけで胸はぎゅうぅっと押し潰されたように苦しくなってしまう。
ボクが1番大切に想っているのは和之さんのハズなのに、白銀さんが傍に近づく度に心が簡単にざわついた。
こんな不誠実な気持ちのままじゃいつか和之さんに嫌われそうで怖い。そう危惧したボクはブルブルと頭を振り、その理由の分からない不純な思いに無理やり蓋をする。
「………チィ? どうした」
突然頭を振り出したボクを不審に思った白銀さんが、首を傾げてまたこちらを心配げに見つめてきた。
普段はあまりボクを見ようともしないクセに、こういう時だけ凝視しないで欲しいと思うが、不審に思われる行動を取ったのは自分なので何も言えない。
しかし何が心配なのか彼は尚もしつこくボクの顔を覗き込もうとするので、恥ずかしさのあまりその場から逃げ出して虎子ちゃんの後ろに隠れた。
「あれ、チィどうしたの? 今朝はあんなに彼と一緒に登校するの喜んでたじゃない」
「な、なんでもないよ。それより虎子ちゃん、ボクこの上に行ってもっと遠くの景色が見たい。でもどうやってコレ登るの?」
登り方が分からず彼女にそう聞くと、傍にいた流星くんがボクを徐ろに抱っこしてくれ、梯 を登っていつもの場所に連れていってくれる。
彼と離れられてホッと胸を撫で下ろしたけど、後ろめたさを感じて流星くんの首にしっかりと腕を巻き付けながら、こっそりと下を見れば白銀さんは既に朔夜さんと何か深刻な顔をして話し込んでいた。
ボクの素っ気ない態度で傷ついていなかったのには安堵したけど、何だかそれはそれで寂しい気もする。
だからちょっとだけ唇を尖らせてボクは拗ねたのだった……。
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