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第326話

ボクはコンクリートの床に大の字に寝転がって、何処までも澄み渡る青空を眺めていた。 いま周りに人はいない。 正確には下のところには白銀さんと朔夜さんが未だ何事かを話し合っていて、ボクのことはすっかり放置されていた。 お昼までは和之さんも戻ってこないだろうし、双子も今日は授業を受けに行ったので同じくお昼まで戻ってこない。 最後の頼みの綱だった流星くんは昨日起きた抗争の後始末とかで、途中から早退し今日はもう戻ってこないと言っていた。 たぶん白銀さんと朔夜さんが話しているのはその抗争のことだろうから、ボクに聞かせられないのは分かる。分かるけど何もこんなに離れて話さなくてもいいと思うんだ。 「ボクひとりぼっち……寂しいな……」 そんなことを思う日が来るなんて、夢にも思わなかった。 ボクの周りには常に人が沢山いたから……。 だけどそこまで考えてあれ? と思う。何故ボクの周りには人が沢山いたんだろう。 平凡で何処にでもいそうな男子高校生なのに、なんで……? 見上げれば吸い込まれそうな空色が広がっていて思考がピタリと止まる。そういえば香住センセが言ってた。 『チィさん《空は青い》ですか? 今も昔も空はそこにあるもの、いつでもアナタを見下ろしていますよ』 あれはどういう意味だったのだろう。 今も昔もそこにあるもの……、いつでもボクを見下ろしてる……? なんだかその言葉はどれも謎解き問題みたいで、頭を使うことが苦手なボクは直ぐに音をあげてしまう。 降参とばかりに寝転んだまま両手を上に投げ出し、バンザイの格好をする。 心地よい風に吹かれてその気持ち良さに瞼を閉じると、何処からかまた甘い香りが漂ってきてボクの鼻孔を擽った。その途端、 「あれ……ウソ、なんで……!? ボクの、目がッ」 瞳に映るもの全てが色を失くし世界が白黒になる。ワケが分からずパニックを起こすも、下にいる白銀さんたちには気づいて貰えずどうしたらいいのか分からない。 だけど暫くすると空から声が降ってきた。 鈴の音のように美しい女の子の声で、その声は何故かボクを呼んでいる。 「……あ……行かな…きゃ、呼んでる。『あの子』がボクを、呼ん…で…る……」 何かに取り憑かれたようにその事だけが頭の中を占め、梯を落ちそうになりながらも降りていて白銀さんたちに気づかれないよう、こっそりとそこから抜け出した。

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