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第334話

『……あ……あ…ぁ……っ』 倉庫内に悲鳴と幼い子供たちの泣き声が響き渡る中、悲しみとワケの分からない感情が胸に渦巻き、けれどもそれらは言葉で言い表せなくて口からは意味を成さない声だけが漏れる。 そんなボクの異変に気づいたコウちゃんのお父さんが、後ろを振り返ったがその脚は止めなかった。寧ろその歩みを早めその場から急いで離れる。 『―――すまない千影くんっ、辛いだろうが今は堪えてくれッ!』 そう言ってボクの後頭部に手を添え、ぐっと力を入れて自分の胸元に引き寄せ、後ろの光景をそれ以上見ないようにした。 そして警戒しながら外へ出ると自分の車にボクを抱えたまま乗り込み、直ぐさまエンジンをかけるとタイヤのスリップ音を響かせながら急発進する。 膝の上に跨る形で座るボクは運転の邪魔にならないかと心配したけど、今は移動させるの時間も惜しいらしくコウちゃんのお父さんは抱き締めたまま離してはくれず、暫くはそのままの状態で車を走行した。 『ちっ、狙いはやはりこの子か!』 車内のバックミラーを見ながらコウちゃんのお父さんが呟く。後ろを見れば黒塗りの車が数台、この車を追ってきていた。 それらを振り切ろうと右に左にと蛇行するも、黒塗りの車はどれも粘り強く後をついてくる。その内1台の車が隣に並んでスモークの貼られた窓が下げられ、中から黒い拳銃のようなものをこちらに向けてきた。 それにいち早く気づいたコウちゃんのお父さんはハンドルを切り、自分の車を相手にぶつけることでそれを阻止する。 衝撃で黒塗りの車は大きくスピンして路肩を超え、歩道側にある電柱に衝突しボクたちの視界から消えた。 喜んだのも束の間、直ぐにまた別の車が入れ替わるように近づいてきてこれではキリがない。 緊迫する中どうするのだろうと震えながらも状況を見守っていると、コウちゃんのお父さんがチラリとボクの顔を見下ろした。 『千影くん、このままキミのお祖父さんの屋敷へ向かうぞ! 彼処なら奴らとも対抗できるし、キミのことを保護してくれるハズだッ!!』 『う? お祖父……ちゃ…んち? でも……っ』 『大丈夫だっ、要から詳細は聞いてる! まだ会った事がないんだろ? でもあの人なら千影くんを必ず受け入れてくれる!!』 ボクの不安を的確に読み取ったコウちゃんのお父さんは、そう言うと背中を優しく撫でてくれる。

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