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第336話

何度か電話口で受け答えをしたあと通話を終えたのか、コウちゃんのお父さんは短く「ありがと、もういいよ」と言ってケータイから耳を離す。 だけど何事か考えるように沈黙が続き、もう一度ボクのほうにチラリと視線を向けた。 『すまない千影くッ―――…』 『いいよっ、咲ちゃんを助けに行くんでしょ?』 ボクはクイ気味に返事を返す。言葉を最後まで聞かずとも、それくらいはなんとなく雰囲気で分かる。 さっきの電話は叔父さんがコウちゃんのお父さんに助けを求めるものだったのだ。 たぶんボクたちをしつこくつけ回している後ろの怖い人たちと、何か深い関わりがあるのだろう。なら咲ちゃんを助けに行けば、必ずそこにアイちゃんもいる。 子供の浅知恵だがボクはそう考えた。両親の安否が分からない今、長男のボクが妹を助けに行かなければと使命感に燃える。 揺るぎない眼差しにコウちゃんのお父さんは苦笑を零したが、直ぐに真顔になりコクンと頷いた。 『キミの事は俺が命懸けで守るから安心してくれ!』 そう言うとまた車は方向転換し、東方面に向かって走り出したのだった。 『―――将騎ッ、こっちだ!!』 くねくねとした山道を登ってきた先にある廃工場跡地の駐車場らしき場所で、叔父さんが建物の陰から手を上げてコウちゃんのお父さんを呼ぶ。 ボクの姿を確認した叔父さんはほんの一瞬、睨みつけるような視線を向けたが今は娘を攫われ気が立っているのだろうと、ボクもコウちゃんのお父さんも気に止めなかった。 『………どういう状況だ、(もとき)』 『それが、咲が連れ去られたと気づいた数分後に電話がかかってきたんだ。お前をここに連れてくれば娘を返してやると言われて……』 『なるほど、奴らも汚い手を使いやがる!』 叔父さんは咲ちゃんを人質に取られ、言う事を聞かざるを得なかったと下唇を噛み締めながら言う。そして人質交換の場に指定されたのが此処だと告げた。 向こうがコウちゃんのお父さんの姿を確認できれば、咲ちゃんは直ぐ解放されるらしい。暫く考え込んだあと、彼はボクに目線を向ける。 『連中が何を企んでるのか分からないが、今は指示に従ったほうが良さそうだな。だが千影くんを連れてはいけない。基すまないが彼を預かっててくれるか』 『それは勿論! でもこんな事を頼んで本当に申し訳ないっ、許してくれ将騎ッ!!』 叔父さんはそう言って深々と頭を下げた。

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