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第338話
コウちゃんのお父さんは後ろを振り返るとちょっと行ってくると軽く言い、ボクの頭をポンポンと安心させるように撫でて歩みを進めた。
そして彼が中央辺りまで辿り着いた時、背後から黒服を着た別の男の人が現れボクを羽交締めにする。
ボクはあまりの突然のことに驚き悲鳴を挙げた。
『やぁっ、離して! ヤダアァッ!!』
『―――千影くんッ!? おいっ、その子を離せ!!』
コウちゃんのお父さんは慌ててボクのほうに駆け寄ろうとしたが、その間に叔父さんが立ち塞がり阻まれる。
目を見開いて何故!? と驚愕する彼を余所に叔父さんは、ニヤリと顔を歪めると高らかに笑い出した。
『相変わらず1度気を許した相手にはとことん甘いね将騎、だがそれだといつか身を滅ぼすよ?』
『……基ッ!? お前なにを言ってッ―――…』
『まだ分からない? ふふ、何処までお人好しなんだよアンタは……』
まるで小馬鹿にするようにクスリと笑うと、叔父さんはこちらに近づくと懐から先の尖った鋭利なナイフを取り出し、それを躊躇うことなくボクの首筋にあてがう。
その光景を目にして漸く状況を把握したのか、コウちゃんのお父さんは鋭く叔父さんを睨みつけた。
『今回の作戦、誰が考えたと思う? そこにいる僕の娘だよっ、僅か5才にしてこれを思い付くなんて本当に凄いよ!』
娘を溺愛する父親の顔をした叔父さんが、陶酔したようにうっとりと言う。それをコウちゃんのお父さんは言葉もなく、ただ叔父さんを静かに見つめている。
ボクはというと何が起こったのかも分からず、縋るように叔父さんを見上げる。するとその眼が気に入らなかったのか、ナイフの柄でガッと頭を殴られた。
『忌々しいガキがッ、初めて見た時から気に入らなかったんだよお前なんか! 人畜無害そうな顔してその歳から男を誑し込む素質を持ってるなんて穢らわしいッ、ホントお前は父親そっくり!!』
『―――基ッ、やめろ! その子に手を出すな!!』
『あぁ将騎、それ以上こっちに近づいたら僕……手が滑っちゃうかもよ? こんな風に……』
静止の声に叔父さんはそう脅すように言い、そして何の躊躇いもなくボクの首に一筋の傷を作った。
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