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第342話

頑として譲らない覚悟でコウちゃんのお父さんを見上げると、彼は深い溜め息を吐き肩を大袈裟なほどに竦める。 『その頑固さ、キミの親父そっくりだな。あいつも1度こうと決めたらテコでも動きやがらなかったよ』 半ば諦めモードのコウちゃんのお父さんはそれならと、先ずは自分が囮で叔父さんたちに捕まり愛音の居場所を突き止めると言い出した。 咲ちゃんがまだコウちゃんの父親に対して執着していれば、自分は危害を加えられないだろうし愛音の行方を無理に探し回らなくても、向こうから合わせてくれる。 その間ボクは大人が決して入れないだろう機械の隙間にでも身を潜め、妹を連れて戻ってくるまで隠れていればいいという。 でもそれは咲ちゃんがまだ彼に執着していればの話だ。もし既に見切りをつけてコウちゃんのお父さんも始末する気でいるなら、愛音と共に確実に殺されるに違いない。 『ダメだよ、そんなの……危ないよ……っ』 必死になって首をプルプルと横へ振るけど、コウちゃんのお父さんはボクの肩に両手を置いた。そして真剣なお顔で瞳を覗き込まれて一瞬だけたじろぐ。 『千影くん、外は直に陽が沈む。もし辺りが暗くなって闇夜に包まれても俺が戻って来なかったら、キミだけでも先に逃げてくれ』 『ヤッ、ヤダァ……そんなこと……できなッ―――』 『ダメだっ、先に逃げるんだ! でないと俺が自由に動けなくなるんだよ、分かってくれ!!』 静かに怒るコウちゃんのお父さんに泣き出しそうになるのをぐっと堪え、ボクは彼の瞳の奥を見る。 むかし父親に相手の嘘を見極める時は、その人の眼を見ればいいと教わったことがあるからだ。 嘘を吐いていれば瞳は僅かに揺れ、真実を告げている時は微動だにしないだろうと……。 しかしコウちゃんのお父さんの眼は決して揺らぐことはなく、真っ直ぐにボクを見下ろしていた。ということはボクがここに残れば彼の迷惑になると本気で思っている。 それが分かった瞬間、ボクは我儘を言ったと申し訳なさにオロオロし出す。 『ごめ……なさ……ボク、ボクッ―――…』 『すまない、少し強く言い過ぎた。だが千影くんが安全な場所に逃げてくれれば俺も愛音ちゃん救出に全力を注ぐことができる。分かってくれるね?』 そう念を押すように問われ、ボクは観念してコクンと頷いたのだった。

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