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第343話

コウちゃんのお父さんがボクを残し、叔父さんの元へ向かってから数時間が経つ……。 言われた通り大人が入り込めないような場所を見つけ、そこに身を潜めると息を殺して膝を抱える。 辺りはとっくに陽が沈み、暗いところが大の苦手なボクは先ほどからビクビクとしっぱなしだ。でも必要以上に怯えているのには他にも理由がある。 コウちゃんのお父さんがいなくなってから、周りに人の気配がまったくしなくなったのだ。 車で追い掛けられていた時はあれほどしつこかったのに、今の静寂は寧ろおかしいとしか思えなかった。 彼らは街中で拳銃をこちらに向けてくるような連中だし、そんなところから2人が無事に戻って来られる保証はどこにもない。 今更ながらにやはり自分も、コウちゃんのお父さんについて行けば良かったと後悔してならなかった。 とその時、目の端に白い物体が横切ったように見えた。 『―――う? いま何か…動いた、ような……』 顔を上げてそちらを見るが誰もいないし気配もない。といってもボクはコウちゃんのお父さんのように気配なんか読めるハズもないので、絶対に人がいないとは言いきれない。 だから念の為もっと機械の入り組んだ場所に入り込み、誰にも見つからないよう身を縮こませた。が、 『あ、お兄ちゃん見ィ~つけた♪ 』 『――――ヒィッ!?』 直ぐ真横で鈴の音のように透き通った声が聞こえ、ボクはびっくりして息を呑む。 胸がドキドキと早鐘を打ち鳴らし、緊張で乾いた喉を潤そうとコクンと唾を飲み込んでゆっくり横を向けば、昼間に愛音が着ていた真っ白のワンピースと同じ服を身に纏った咲ちゃんが四つん這いになってそこにいた。 『………咲ちゃ……ん……ッ!?』 『や~ね、わたし愛音よ? もうっ、従姉妹の咲ちゃんと愛音を見間違えるなんてお兄ちゃん失格ね、フフフッ』 コロコロとボクの隣で笑う彼女に鳥肌が立つ。 咲ちゃんは既に愛音になりきっていて、ボクをさっきから“お兄ちゃん”と呼ぶ。 あまりの恐怖に彼女から少しでも逃れようと背中を反らす。すると真っ白なワンピースの袖に赤いシミのようなものを見つけ、思考が止まってしまった。 ―――あれは、なに……、血じゃない……よね……?

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